株価の短期予想が「ほぼ不可能」なワケ
投資初心者と話していると、「株価が下げているが、もう少し下がりそうだから、それまで待って買うつもりだ」などという人が少なくありません。しかし、投資初心者に予想できるほど株価の動きは単純ではありません。
株価の短期的な動きは、「皆が上がると思うと皆が買い注文を出すので実際に上がる」といったことで決まります。ケインズはこれを美人投票にたとえていますが、詳しくは拙稿『【みんなが信じれば株価上昇】投資初心者が面食らう「美人投票の理論」って?』をあわせてご参照いただければ幸いです。
「〈ほかの投資家が、株価上昇を予想するか否か〉を予想する」など、超能力でもない限りは無理でしょう。あるいは、世界中のSNSの投稿をすべて瞬時に読んで分析するソフトでも持っていれば可能かもしれませんが…。
初心者が間違える典型的なケース「高値掴み&狼狽売り」
投資初心者に株価の予想ができない理由について、また違う説明もできます。
株式市場で値段が決まっているということは、その値段で売り注文と買い注文の数が一致している、ということです。つまり、世界中のプロの半分が株価上昇を予想して買い注文を出し、プロの半分が株価下落を予想して売り注文を出しているからいまの株価が成立しているわけで、そんなときに初心者の予想が当たるはずがないのです。正確にいえば、当たる確率は5割弱あるのですが(笑)。
初心者の予想が5割弱しか当たらない理由は、初心者は「自分で考えると間違える(不合理な意思決定をする)」からです。サイコロを振って買うか売るかを決めれば確率は5割なのでしょうが、それより低い確率になってしまうわけですね。
初心者が間違える典型的なケースとしては、株価が上がり続けていると、そのまま上がり続けるような気がして、「急いで買わないとチャンスを逃してしまう!」と考える場合でしょう。上がり続けているときは割高になっている可能性が高いわけですが、焦って大量に買って「高値掴み」をしてしまう初心者が多いようです。
もうひとつ、株価が暴落すると「この世の終わりが来る」ような気がして、持っている株を投げ売りしてしまう初心者も多いようです。初心者が「狼狽売り」をするとそれが株価の底値となって株価が戻り始めることも多いようです。売るべきプロは初心者より先に売るので、株式市場に売り手が残っていないからです。
人間は自信過剰にできている
上記のように、初心者に株価予想は無理なのに、自分は株価が予想できると考えている人も多いわけですが、それは人間が自信過剰にできているからかもしれません。
人類の進化の過程で、自信喪失ばかりしている個体は餌を脅し取られて生存が難しかったのかもしれませんし、自信過剰な個体は新しいことに挑戦し、ときとして大発見をしたのかもしれません。
理由はわかりませんが、人間が自信過剰であることは居酒屋での人々の愚痴を聞けば容易に想像できます。「俺は仕事ができるのに、人事評価が低すぎる」という人はいても、「俺は仕事ができないのに、どうして評価されているのだろう」という愚痴は耳にしたことがありませんから(笑)。
株式投資「カジノより勝てるバクチ」として楽しむのなら…
カジノのルーレットで「赤が出るような気がする」と考えて赤に賭ける人の勝率は5割弱です。0と00が出ると、赤に賭けても黒に賭けても負けるからです。したがって、投資初心者が不合理な意思決定をする確率の方がまだマシかもしれません。
しかも、購入した株を長期間保有していれば、企業が生み出す価値の分前にあずかることが可能です。配当がもらえれば現金収入ですし、利益が配当されずに内部留保されれば株式の価値が上がるので株価の上昇が期待できますから。
しがたって、株式投資をバクチと考えて「カジノに行くのをやめて株式投資をする」というのも選択肢でしょう。ただし、カジノには老後資金は持っていかず、小遣いだけを持っていくでしょうから、バクチとして株式投資を楽しむのであれば、小遣いの範囲内で遊びましょう。
老後資金の一部を株に振り向けるべき理由
筆者は老後資金の一部を株に振り向けるべきだと考えていますが、それはバクチとしてではなく、銀行預金がインフレに弱いリスク資産なので、その弱点を補うために「リスク回避のための株式保有」が必要だからです。
したがって、大儲けを狙うのではなく、大損しないことを最優先に考えています。そのためには、投資信託を毎月一定額ずつ積み立てていくのがよいでしょう。多くの銘柄の株式を毎月少しずつ買っていけば、儲かる銘柄も損する銘柄もあるでしょうし、高く買うときも安く買うときもあるでしょうから、大損するリスクが減らせるからです。
筆者が株価予想を語らないワケ
最後は余談です。筆者に株価の予想を聞く人がいますが、筆者は答えません。上記のように、筆者にとっても株価の予想が非常に難しいからです。「株価の予想が得意だったら、もう少し高そうなスーツを着ていますよ(笑)」などと答えて終わりです。
筆者が株価見通しを答えない理由は、もうひとつあります。筆者の予想が当たった場合、筆者の予想通りに株を売り買いした人は「自分の才覚で儲かった」と思うでしょうし、筆者の予想が外れた場合には「塚崎のせいで損をした」と恨まれかねないからです。
そこで、答えざるを得ないときには「上がるか下がるかの予想は申し上げられませんが、私は今日は買い注文を出しました」と答えることにしています。それなら恨まれる心配は少ないですから。
本稿は以上ですが、投資は自己責任でお願いします。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。
筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「ゴールドオンライン」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。
塚崎 公義
経済評論家
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