株価の暴落、「比較的小さな事件」でも起きることがある
株価は、ときとして暴落します。大きな事件が起きて暴落するのは当然ですが、比較的小さな事件でも株価が大きく下がることは珍しくありません。それは、株価が美人投票の世界だからです。
美人投票というのはケインズの言葉ですが「株価は真実よりも人々の気持ちによって動くので、人々が下がると思うと売り注文が増えて実際に下がる」といった意味ですね。
人々が株価に弱気になっているときには、小さな事件でも人々が不安心理から株を売ることがあります。そうなると、「ほかの投資家が売りそうだから、自分も先回りして売っておこう」と投資家たちが考えるため、実際に大幅な下落が起きる、というわけです。
そうして株価が暴落すると、美人投票以外の力も加わって株価の暴落が加速し、株価があるべき水準をはるかに下回るところまで下がり、その後で戻ってくる、というケースも珍しくありません。本稿は、そのメカニズムについて考えてみようというものです。
なお、バブルの崩壊については、バブル崩壊によって経済が壊れてしまったり金融危機が発生したりしかねず、一概には論じられないので、本稿では取り扱わないことにします。
「売りたくない売り」が出てくると…
「値下がりしそうだから売る」といった相場観からの売りのほかに、「売りたくないのに売る」ことを強要されて出てくる売り注文があります。暴落時には、そうした「売りたくない売り」が暴落を加速させるのです。
まず、借金で株を買っている投資家です。銀行から返済を迫られると、保有株を泣く泣く売って返済せざるを得ないわけですね。個人投資家でも「信用取引」をしている場合、暴落時に追加証拠金が払えないと泣く泣く売ることになります。同じことですね。
買えば儲かると思って買ったあとで暴落したわけですから、相場観からは借金を増やして買い増ししたいところなのに、意に反して売却させられ、非常に悔しいことでしょう。
しかし銀行としては、借金で株を買っている投資家が株価暴落で破産してしまったら貸倒れになってしまいますから、返済を要求するのは当然なのです。
もうひとつ、多くの機関投資家は担当者に「損切りルール」を設けています。株価が一定以上暴落したら、持っている株を全部売って休暇をとって頭を冷やせ、というルールです。
損失が無限に拡大するリスクを防ぐ、ということに加えて、損失が膨らんだ担当者は頭に血が上って冷静な判断ができないから、ということもあるようです。
しかし、値下がりしたところで買い増しし、一気に損を取り戻そう…と思っていた担当者は、全部売得ることになり、さぞ悔しいでしょうね。
投資初心者、狼狽売りをしがち
投資初心者は、株価が暴落すると「この世の終わりが来る」ように感じ、狼狽売りをしてしまう場合が多いようです。
なかには、暴落したときに果敢に買い向かう人もいるようですが、「割安になったと思って買い向かったのに、株価がさらに下がったことで狼狽し、売ってしまった」という人もいるようです。
そういう人は、売る前に本稿を読んでいただければよかったのに、残念です。
相場観から売買している人だけではなく、積立投資をしている個人投資家のなかにも、狼狽して積み立てをやめてしまったり、持っている残高を売ってしまったりする人がいるようですが、これはもったいないことです。
積立投資のメリットのひとつは「初心者は自分で判断すると間違えるので、自分では判断せずに自分で決めたルールどおりに積立投資をするのがいい」ということなのに、せっかく決めたルールを自分で破ってしまうわけですから…。
投機家は、あらかじめ売っておく
上記のように、ある程度以上の暴落が発生すると、それをさらに加速するような売りが出てくる可能性が高いわけで、それを知っている投機家たちは、暴落が発生すると急いで売る場合も多いようです。
「売りたくない売り」や「狼狽売り」の場合、相場観からは「買いたい」と思われる水準で売りが出るわけなので、当然、株価は妥当な水準を大きく下回ることになります。そうなったときに投機家が買い戻せば、割安で株が手に入る、というわけですね。
初心者が狼狽売りをすると株価が戻るワケ
上記の順番とは異なり、時系列的には最初に暴落が起こり、投機家が売り、売りたくない売りが出て、最後に狼狽売りが出ます。その時点で、株価の下落は止まります。なぜなら、売りたい人、売らざるを得ない人の売り注文はすべて発注されたからです。
そうなると、投機家が売った分の株を買い戻しますから、株価は上昇しはじめます。売り注文が残っていないので、比較的順調に株価が戻っていくわけですね。そのうちに、休暇から戻った機関投資家の担当者も参戦するでしょう。持っている株を全部売ってしまったわけですから、安値で買えるときには思い切って買うわけです。
狼狽売りをした初心者は事情が理解できず、唖然として株価を眺めることになりますが、その後は「自分が損をした」ことを明確に理解し、大泣きすることになるわけです。
損切りはすべきだが、狼狽売りは避けるべき
投資初心者は損切りが下手で、いつまでも値下がりした株を塩漬けにしている、といった批判を耳にすることも多い一方で、本稿には狼狽売りを避けようと記されています。混乱している読者もいるかもしれません。
実際、損切りと狼狽売りは、行為としては値下がりした株を売るわけですから、区別がつきにくいでしょうね。筆者も明確な区別ができているわけではありませんが、明らかに違うのは、損切りは冷静な判断のもとでおこなわれ、狼狽売りは冷静さを欠いた判断のもとでおこなわれる、ということでしょう。
筆者としては、以下の基準で考えることを原則としています。
「平均株価が暴落したときの売りは、狼狽売りの可能性が高いので避けるべき」
「個別株が暴落したときの売りは」損切りなので急ぐべき」
という基準です。
平均株価が暴落するのは、市場心理の悪化による場合が多いでしょう。市場の心理は振れるもの、下がっても再び上がる場合が多いので、落ち着いて戻りを待つほうがいい場合が多いでしょう。この世の終わりなど滅多に来ませんから(笑)。
一方、個別銘柄の暴落は「銘柄の終わり」である場合が多いでしょう。個別銘柄に関する市場心理だけが悪化することも少ないでしょうし、個別銘柄だけが下がった場合には、上記のような「売りたくない売り」で暴落が加速されることもないでしょうから、戻りを期待することも難しそうです。
本稿は以上ですが、投資は自己責任でお願いします。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。
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塚崎 公義
経済評論家
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