(画像はイメージです/PIXTA)

きょうだい間の遺産分割は、「親+子どもたち」による遺産分割よりトラブルが発生しやすい傾向にあります。相続人それぞれが納得できる分割方法の選択が望まれます。今回は、遺産分割のさまざまな方法についてみていきましょう。FP資格も持つ公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

そもそも「遺産分割」とはどのようなものか?

生徒:高齢の父が亡き母のもとに旅立ちまして、相続が発生しました。きょうだいで遺産を分割しなければいけませんが、なにから始めればいいでしょうか?

 

先生:まず、遺産を分ける前に、遺産となる相続財産をすべて見つけ出して確認しなければいけません。相続時に遺されている財産だけでなく、相続発生前に贈与された財産や、引き出された預貯金も含めなければいけないため、簡単な作業ではありませんが…。

 

生徒:相続発生前に引き出された預貯金というのは、どういうものでしょうか?

 

先生:たとえば、亡くなった方の世話をしていた家族が、医療費を支払うために親のキャッシュカードを使って預貯金を引き出しているケースなどです。

 

生徒:なるほど。相続発生時には引き出されているから、確かに預貯金としては残っていないですね。

 

先生:遺産分割は「遺産分割協議」という、相続人全員の話し合いで決めるのですが、話し合いで意見が合わなかったり、話し合いに参加しない相続人がいたりして協議がまとまらないケースというのは、実は少なくありません。

 

生徒:その場合はどうなるのですか?

 

先生:遺産分割協議に合意できないと、相続財産は「相続人全員の共有状態」のままになりますから、処分が難しくなります。そのような事態を回避するには、相続人が、家庭裁判所に調停を申し立て、遺産分割調停をすることになります。もしこの調停に現れない相続人がいる場合は、遺産分割審判に発展し、裁判官が遺産分割を決めることになります。

遺言書があればそれに従い、なければ遺産分割協議をおこなう

生徒:きょうだいで遺産分割を行う方法について、具体的に教えてください。

 

先生:実は「きょうだいで遺産分割を行う」という場合、同じ言葉でも2つのパターンがあります。1つ目は、亡くなった人に複数の子ども、つまりきょうだいがいるパターン。2つ目は、亡くなった方に子どもがいないために、その方のきょうだいが相続人となるパターンです。

 

生徒:なるほど…。

 

先生:とはいっても、遺産分割協議の流れはどちらも変わりません。遺言書があればそれに従うことになりますし、遺言書がない場合は、相続人全員で話し合いをおこなうことになります。

納得感のある遺産分割は「相続財産の適正な評価」があってこそ

生徒:きょうだいで平等に遺産を分割するには、どうすればよいのでしょうか?

 

先生:まずは相続財産の価値を正しく評価することが重要です。そうでないと、分割後にそれぞれが取得する相続財産の大きさに差が生じ、争いに発展する原因となります。

 

生徒:具体的にどのように分けるのですか?

 

先生:遺産分割の方法には「共有」「現物分割」「代償分割」「換価分割」の4種類があります。

 

[図表1]遺産分割の4つの方法

 

◆遺産分割の方法➀共有

先生:まず「共有」ですが、不動産の所有権について、たとえば、長男が2分の1、次男が2分の1というように、持分割合を決めて、全体の所有権を一緒に持つ方法です。ただし、共有してしまうと、所有者の1人が売却したくても、ほかの所有者が同意しないと売却できないといった問題が生じるリスクがあるため、あまりおすすめできません。

 

生徒:なるほど、不動産の共有はトラブルのリスクがあるのですね…。

 

◆遺産分割の方法②現物分割

生徒:では、現物分割とはなんですか?

 

先生:「現物分割」というのは、それぞれの相続財産を誰が取得するのか決める方法です。仮に、不動産と預金と有価証券があった場合、長男が不動産、次男が預金、長女は有価証券を取得する…というように、現物で分けることになる方法です。もし1つの土地を複数で分けたいのであれば、分筆して2つの土地に分割してしまえば、小さくなったそれぞれの土地を1人ずつ取得できるようになります。

 

[図表2]土地の分筆のイメージ

 

生徒:土地を分筆するときは、面積が等分になるよう分割すればいいのでしょうか?

 

先生:いいえ。それほど簡単ではないのです。土地というのは、場所によって大きく価値が変わります。その形状や、道路に面しているかどうかによって評価額は変わってくるため、慎重に分割する必要があります。

 

[図表3]分筆の仕方で土地の評価額が変わる

 

◆遺産分割の方法③代償分割

生徒:代償分割というのはどのような方法でしょうか?

 

先生:「代償分割」というのは、相続人の1人が多めに財産を取得する代わりに、他の相続人へ不足分のお金を支払う方法です。ここで相続人が支払うお金のことを「代償金」といいます。

 

生徒:なるほど。それなら、公平に遺産分割できるように調整できますね。

 

先生:代償分割を行うメリットは、先祖代々が所有する土地など、できるだけ維持したい財産を分割せず、相続人の1人に取得させることができることです。

 

生徒:代償金として支払うお金を持っていなかったら、どうなりますか?

 

先生:そういった場合は代償分割できません…。

 

◆遺産分割の方法④換価分割

生徒:換価分割はどのような方法でしょうか。

 

先生:「換価分割」は、財産を売却し、そこで得た現金を分ける方法です。

 

生徒:現金を分割するのなら、話し合いも簡単にまとまりそうですね!

「話し合いがまとまらず、相続税納付ができない」→対処法は?

生徒:もし遺産分割の話し合いがまとまらない場合、相続税申告はどうなりますか? 相続税申告は10ヵ月が期限ですが、遺産分割が終わるまで申告や納税を待ってもらうことができるのでしょうか?

 

先生:申告も納税も待ってもらうことはできません。遺産分割できなければ、法定相続分の割合で分割したものと仮定して相続税を申告し、納税しなければいけないのです。きょうだいの遺産分割の場合、後々の遺産分割協議がまとまったときに財産をもらえることになった人だけでなく、財産をもらえない人まで相続税を納付することになってしまいます。

 

生徒:遺産分割が終わっていないのに、相続税だけ先に支払うんですか?

 

先生:そうです。しかも、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例といった、相続税を減額できる特例が使えないので、遺産分割が完了している場合と比較して、相続税額が大きくなる可能性が高くなります。

 

生徒:それは困りますね…。遺産分割の完了後に特例を使うことはできますか?

 

先生:その場合は「申告期限後3年以内の分割見込書」に適用したい特例を書いて提出しておく必要があります。

 

生徒:裁判中など、3年過ぎても遺産分割ができない場合もあると思いますが、その場合はどうするのでしょうか?

 

先生:「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出することになります。そうすれば、判決が確定するまで待ってくれます。

 

生徒:では、遺産分割がまとまったあとで改めて相続税を計算したところ、先に納税しておいた金額と異なるといったことも起こりえると思いますが、その場合はどうすればいいのですか?

 

先生:修正申告することになります。あらかじめ納税していた額を上回る場合は、もちろん追加で納付することになりますが、多めに支払っていた場合はきちんと戻ってきます。

 

生徒:わかりました。ありがとうございました。

 

 

岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

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