【株価のフシギ】国民の思考が実現させた「金融緩和→株価上昇」だが…今度は「金融引き締め→株価暴落」の想像に、関係者たちが戦々恐々

【株価のフシギ】国民の思考が実現させた「金融緩和→株価上昇」だが…今度は「金融引き締め→株価暴落」の想像に、関係者たちが戦々恐々
(※写真はイメージです/PIXTA)

株式投資の世界ではしばしば「多くの人が信じれば現実になる」という不思議な現象が起こります。最近では「金融緩和で株価上昇」という理論的とはいいがたいシナリオが実現し、株高のメリットを享受しましたが、その一方で「金融引き締めで株価下落」という、やはり理論的とはいいがたいシナリオに、みんなが戦々恐々とする、という面白い現象が起きています。経済評論家の塚崎公義氏解説します。

ゼロ金利下の金融緩和、理屈で考えれば「無風」のはず

金融緩和というのは、日銀が市場に資金を供給することです。具体的には、銀行が持っている国債を日銀が購入して代金を払う取引となります。金利が高い時に日銀が金融緩和をすれば、資金が欲しい銀行はほかの銀行から借りなくても日銀に国債を売ればいいことになります。

 

その結果、貸したい銀行と借りたい銀行の比率が変化し、金利が下がります。支払われた代金の分だけ世の中に資金が出回るから金利が低下する、と表現してもいいですね。

 

ところが、ゼロ金利のときには、金融を緩和しても金利は下がりません。貸したい銀行と借りたい銀行のバランスが変化しても、金利はゼロのままです。貸したい銀行の方が多くなるので、借り手を見つけられない銀行が出てきますが、その銀行が日銀に預金する、というだけですから。

 

借りてくれる顧客が見つかるとも思われません。銀行間の金利が下がらなければ、貸出金利も下がらず、借り手の資金需要も増えないからです。別の面から見ると、銀行がなぜ国債を持っていたのかを考えれば明らかです。顧客が借りてくれるならば、超低金利の長期国債など買って持っているはずがないからです。

 

結局、「銀行が政府に金を貸していた状況」から、「銀行が日銀に金を貸し、日銀が政府に金を貸している状況」に変化しただけで、なにも変わっていないのです。

 

ゼロ金利下では金融緩和をしても何も起こらないので、株価が上がるはずがないのです。もっとも、理屈通りに動かないのが株価というものなのですが(笑)。

 

ちなみに、マイナス金利の話は忘れましょう。銀行間金利も日銀への預金も同じ金利になるはずなので、マイナスでもゼロでも同じことだ、ということにしておきましょう。

重要なのは「理屈が正しいか否か」ではなくて…

株価は「美人投票」の世界です。美人投票というのはケインズの言葉で「皆が上がると思うと皆が買い注文を出すので実際に上がる。だから、株で儲けるためには真実を知るより人々の噂を信じるほうがよい」といった趣旨です。

 

美人投票の世界は、理屈が正しいか否かが重要なのではなく、皆が株価が上がると思うか否かが重要なので、理屈で考えすぎると儲けることができません。そして、投資家たちは「金融が緩和されると株価が上がる」と考えているので、金融が緩和されると買い注文が増えて株価が上がるのです。

 

アベノミクスで黒田日銀総裁が金融を緩和した時も、株価は大きく上がりました。筆者は元銀行員なので、ゼロ金利下で金融が緩和されても何も起きないということを知っていましたが、それでも株を買いました。元銀行員でない投資家は、黒田総裁が自信満々に「世の中に資金が出回るから株価が上がるでしょう」と記者会見をするのを聞けば信じるはずだからです。

 

真実を知っているから儲かるというわけではない、ということが理解していただけましたでしょうか。自分だけが真実を知っている、などと自己満足しているようでは、株式投資で儲けることはできないのです(笑)。

 

筆者は、株で儲けた金を持って何度も飲みに行きました。「黒田総裁、ありがとう」と言いながら乾杯をしたのですが、本当はケインズ先生にも礼を言うべきでしたね。美人投票という考え方を教えてくれたのはケインズですから…。

 

さて、黒田緩和で株価が上がったのを見た投資家たちは、「金融が緩和されると株価が上がる」という自分たちの考えた通りになったので、ますます自信を深めたはずです。次の金融緩和の時も絶対に株を買うと誓った投資家も多いでしょう。こうして、投資家たちの信念は一層強固なものになっていくわけです。

株価暴落を恐れ、金融引き締めが遅れるという可能性も

このような投資家の認識は、日本だけではなく世界中で強固なものとなっています。これは、中央銀行にとって影響力が強まって嬉しいことなのかもしれませんが、じつは困ったことでもあるかもしれません。

 

景気が悪いときに景気をよくしようという場合には、ゼロ金利下でも金融を緩和すれば株価が上がって景気にプラスの影響が出る、ということは中央銀行にとって好ましいといえるでしょう。

 

しかし反対に、インフレが心配になってきたから金融の緩和をやめよう、と考えるときには「金融の緩和をやめたら株価が暴落するかもしれない」という恐怖があるわけです。

 

ただでさえ、金融の緩和をやめるのは不人気な政策です。インフレ抑制のために景気をわざと悪くしようというわけですから。しかも、株価の暴落まで招きかねないとあれば、中央銀行が金融の引き締めに躊躇することは自然なことなのかもしれません。

 

もしかすると、中央銀行がなにもしなくても、市場関係者がわずかな手がかりを探し出して「そろそろ金融緩和の程度が少し少なめになるかもしれない」と考えただけで株価が暴落するかもしれないわけです。

 

中央銀行のせいで株価が暴落するようなことになれば、総裁の評判は落ちるでしょうし、再任されなくなってしまうかもしれません。しかし、それを恐れて金融の引き締めが遅れてインフレになってしまえば、やはり評判は落ちるでしょうし再任されないかもしれません。

 

インフレ率を予想しながら金融政策を実行するのであれば、それほど難しいことではありません。しかし、市場の反応は美人投票ですから、引き締めによって株価が暴落するのか否かを予想するのは非常に困難でしょう。中央銀行総裁の仕事というのは、ストレスの大きい仕事なのでしょうね。

 

本稿は以上ですが、資産運用等々は自己責任でお願いします。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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