強気相場は「悲観のなかに生まれ…」
米国の著名投資家テンプルトンの言葉として伝えられているものに「強気相場は悲観のなかに生まれ、懐疑のなかで育ち、楽観のなかで成熟し、幸福のなかで消えていく」というものがあります。
景気が悪く、人々が経済の先行きを悲観しているときに株価が底値をつけて上がり始める、というわけですね。
景気それ自体の予測が景気の動きに遅れる(景気予想屋が「景気が回復を始めた」と気づく前に景気が回復を始めている)ということもありますが、景気が回復を始める前に株価が上がり始める、ということもあり得るわけです。
景気の現状を見て悲観的になっている投資家が多いなかで、株価が売られ過ぎの水準まで下がっているかもしれません。
ですが、そんなときに「過去10年の利益額の平均と比べると現在の株価は割安だ。今後10年にも好況と不況があるだろうから、いまのうちに買っておけば儲かるだろう」と考える投資家が買えば、株価は上昇するかもしれません。
景気が悪いときでも企業の利益は増えるかもしれません。景気が悪いときには前年の利益が小さいでしょうから、少額の増益でも前年比の増益率は大きなものとなり、投資家を驚かせるかもしれません。
企業の売上高が低迷していても、不況で材料の仕入れ値が下がったり、好況時に投資された設備の減価償却が進んで償却負担が軽くなったり、高金利時に借りた資金が返済されて低金利の負債に置き換わったり、従業員が定年退職で減少したりリストラが進行したりすれば、企業の利益は増えるかもしれませんから。
人々が経済に悲観的になっているときに株を買うのは大変難しいことですから、一般の投資家はそんなことを目指す必要はないでしょうが、気をつけたいのは「景気が悪いのに株価が上がった。株価が間違えているから、いまのうちに塩漬けにしてある株を売ってしまおう」などと考えないことでしょう。
強気相場は「懐疑のなかで育ち…」
景気が回復を始めても、景気の水準はしばらく低いままです。景気予想屋は景気の方向を気にしますが、一般の人は景気の水準を気にするでしょうから、「まだまだ景気は悪いのに、株価が戻り始めたのは不思議だ」と考える投資家も多いでしょう。
景気予想屋が景気の方向を気にするのは、景気は回復を始めると「売れる→作る→雇う→給料をもらう→買う」といった好循環から回復を続ける性質があるからです。人々が「景気が悪い」と感じているときに景気が回復を続けると、投資家たちは意表を突かれた感じがするかもしれませんね。
景気が回復を始めると、企業の利益が増えるでしょう。設備も人員も余っているときに売上が増えれば、売値分だけ収入が増えますが、支出は材料費だけしか増えないので、増益額は大きなものとなりがちです。前年の利益が小さければ、増益率は大変高いものになるかもしれません。
強気相場は「楽観のなかで成熟し、幸福のなかで消えていく」
景気が回復を続けると、人々が景気の良さを認識し、景気の先行きに強気になります。そうなれば、株式投資をためらっていた人々が積極的に買うようになり、株価は上昇を続けるかもしれません。楽観のなかで強気相場が成熟するわけですね。
そのうち、景気は絶好調となり、株価も絶好調となり、経営者も投資家も幸福だと感じるようになるでしょうが、そのときには株価は下がり始めているかもしれません。悲観のなかで強気相場が生まれたのと逆のことが起きるわけですね。
企業は生産能力が足りずに増産できず、売上が増えにくい一方で材料費も金利も賃金も上がると、利益が減り始めるかもしれません。工場拡張の投資をすれば金利負担と減価償却負担が増えるでしょう。「上がるから買う、買うから上がる」という投資家たちの行動によって順調に上がって来た株価が、すでに高すぎる水準になっていることに気づく人が増え始めるかもしれません。
今次局面は違う?…景気以外の要因にも幅広く目配りを
以上、一般論として景気と株価の関係について考えて来ましたが、株価を動かすのは景気だけではありません。とくに、日本の景気は「山低ければ谷浅し」という状況が続いていますので、景気以外の要因にも幅広く目を配る必要があるでしょう。
ウクライナ情勢がどうなるか、資源エネルギー価格がどうなるのか、新型コロナがこのまま収束してくれるのか否か、米中対立がどうなるのか、といったことが株価に大きく影響するかもしれません。米国の金融引き締めが続けば米国株価に影響し、それが日本株にも影響するかもしれません。
日本株に固有の要因としては、「日本企業がPBR1倍を目指して頑張り始めた」ということ等に海外の投資家が注目しているようで、その影響にも注視したいですね。
今回は、以上ですが、当然ながら投資は自己責任でお願いします。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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