老親の介護費か、子供の学費か…。究極の選択を迫られたケース
実際に相談に訪れた家族の例を紹介しましょう。80歳の父親を持つ兄妹は、がんで闘病中の父親には東京都内の自宅(土地と建物)しか遺産がないことに頭を抱えていました。銀行口座の預金残高は約300万円で、通院治療や介護費用で毎月減っていきます。元気だった頃にギャンブルが好きだったわけでも、酒に溺れていたわけでもありませんが、「貯蓄する」という意識がなかったのです。
死亡保険も医療保険にも未加入で、収入は老齢基礎年金と老齢厚生年金の月13万円ほど。自宅の光熱水費や固定資産税、マイカーの車検費用などもかさみ、老後生活に余裕はありませんでした。「要介護4」認定を受けたものの、一人暮らしの父親の介護費用は月10万円近くに上ります。
この兄妹は、末期がんと医師に診断された後の入院費用を2人の貯金から毎月10万円ほど支払っていましたが、それぞれ結婚し家庭があります。ともに40代で子供は2人。中学受験を控えて教育費が膨らんでいる時期でした。
3ヵ月ほどの入院後に父親が最期を迎え、葬儀は家族葬で行いましたが、それでも葬儀費用は約100万円。父親の預金残高からギリギリ払うことができたものの、今後は1000万円近い相続税が待っています。兄妹は分納することを決断しましたが、下手をすれば子供の受験費用にも影響するほどの悲惨なケースでした。
最近は「終活」ブームもあり、自分が最期を迎えた時の医療費や介護費、葬儀費用などを準備している人も多くなってきましたが、「自分はまだ元気だから大丈夫」と考えて貯蓄を怠ってしまえば、残される家族の負担が増すことになります。もちろん、日々の生活費に窮してしまい、貯蓄をすることが難しい人もいるでしょう。その場合は、配偶者や子供と事前に話し合うことによって子供たちも費用を想定しておくことができます。
結局、この兄妹は相続税の負担を考えて教育ローンを利用することにしました。人生は計算通りにいかないことが多いですが、ライフプランは「想定外」のリスクにいかに対応するのか、不測の事態にも対応できるよう設計図を描くことが要諦となります。「いざ」の時の話をすると、「縁起でもない」などと親の機嫌が悪くなってしまうという声をよく聞きます。しかし、入院や介護、葬儀の費用を誰が、どのように負担するのかを決めておくのは親の「最後の責任」と言えます。
財産分与の話だけでなく、必要となる費用の部分も家族で事前に話し合っておくことが、「相続」ならぬ「争族」、とならないためにも必要です。