結局、ブランディングに「環境音」は必要なのか?
では、環境音を「気にする」or「気にしない」。これはどちらがいいのか。これは、すなわち、「マーケットイン」で考えるか、「プロダクトアウト」で考えるかの二元論に少し近いかもしれません。
それは、どちらか1つを取るということではなく、段階的に考えるべきことなのです。まずは、盲目的に「素敵だ!」と思う世界を、プロトタイピング(ひとまず見える形に)してみることが重要です。
企画書でも、イラストでも構いません。これを、我々ブランディングの世界では、「ありたい姿の可視化」といいます。いわゆる「ビジョン」にあたるものですね。まずは、それをいち早く可視化して、他人に共有できる形にする。そして、そこから改めて客観的にそのストーリーを見つめてみるのです。実際に作ると、いろいろな新しいヒントが見えてくるものです。
次に、そこから、初めて環境音に徹底的に耳を傾けてみます。「マーケットはどんな戦況か?」「ターゲットは十分に存在するのか?」「そのためには、このコンセプトをベースにどんな工夫をすればいいのか?」「なにが価値なのか?」「進化の可能性は?」……と、ここにアップデートという考え方が生まれてきます。
すると、もしかすると、この事業は単純な「カフェ事業」ではなくなるかもしれません。事業としての成功を戦略に落とし込んでいくと、コーヒー豆の「サブスクリプション事業」かもしれませんし、「コーヒーに合うお菓子の専門店」にピボットするかもしれません。カフェのコンサル事業や、メタバースのなかでコーヒー体験を提供する事業に進化するかもしれません。つまり、戦術はいくらでも進化させていけるのです。
ブランディングで「最も重要なこと」
なにより、ここで最も重要なことは「すでに行動し始めていること」です。走り出した「思い込み」は、ひとまず可視化され、すでにアップデートの段階に入っているということがなによりも重要です。主観と客観の議論を繰り返し、可能性がなければすぐに考えを改め、素早く次に進めばいいのです。これらを「アジャイル型ブランディング」または「スプリントブランディング」といいます。
ブランディングの世界では、「実行すること」を重要視した重要な手法で、今非常に注目されているプロジェクトスタイルです。これは、「環境音」に耳を傾けすぎるあまり、考えすぎて結局なにもやらないことや、大きく遅れてしまうことと比べるとどうでしょう。
ほんの少し長期的に見るだけで、圧倒的に価値があることなのではないでしょうか。いま、世の中にはあらゆる情報やノウハウやビジネスのコツが溢れてしまっていて、開示されてしまっている時代です。情報格差は昔に比べて少ない。逆に出てきている格差は、「行動格差」なのです。ブランディングで成功するかしないかの差はここにあります。
「仮説推論」で新しいブランドを生み出す
「デザイン思考」という言葉が最近よく出てきます。「仮説の推論」を立て、それを解像度の低い状態であっても、まずは「プロトタイピング(可視化)」し、どんどん改良を加えて、「アジャイル型でブラッシュアップ」していく。ときには消費者の意見を素早く反映し、初期に設計したプランを否定することもある方法です。
上記のコーヒーの事例は、いささか極端な一例でもありました。参入障壁の低さや、飽和しているマーケットへのトライは少し無理があるでしょう。しかし、好きなものだけを見て周りを遮断し、ある種盲目的にいいと思うものを追求する。そこから、しっかりと「いい品質やサービスを作る」。
次に、「環境音」を徹底して戦略に組み込む。そこに、「行動を起こしたこと」が功を奏し、素晴らしいブランドを生み出す可能性が出てきているのです。また昔に比べ、いろいろな製品やサービスを素早く安価に提供できるようになった、時代の後押しも大きいのです。
ブランディングの第一歩は、「まず行動を起こすこと」であり、失敗しないようにすることではないのです。筆者も、改めてトライしてみようと思います。こう考えると、ブランディングというものは、商売の技術というだけではなく、人生でやりたかった夢を叶える手法の1つなのかもしれません。
戸田 成人
株式会社 YRK and
執行役員CBO/事業コンサルティング本部統括
ブランディングストラテジスト
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