(※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、チーフリサーチストラテジスト・石井康之氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。「アジアリサーチセンター」のレポートを基に、7月のアジア・マーケットを振り返ります。

中国<金融市場動向>

⇒株価は持ち直し、人民元に下落リスク、金利はもみ合いながら低下。

 

【株式市場】

◆景気支援策への期待感が高まる

23年4-6月期のGDPや6月の小売売上高などは市場の事前予想を下回ったものの、7月下旬に開催された中央政治局会議において、低迷する経済、特に住宅市場を活性化する意思が示されたことが好感された。また、大手インターネット企業であるアリババ傘下の金融会社に対する罰金が発表されたことなどを受け、大手インターネット関連企業に対する規制強化が最悪期を脱したとの期待感が高まったことも押し上げ要因となった。投資戦略においては、引き続き構造的な成長分野の有力企業、政策のサポートを得ている企業、国際競争力のある企業、増配が期待できる企業に着目し、ツーリズム関連や環境関連、国産化が進展するソフトウェアや工場自動化部品、消費の高度化などを長期目線では有望視できそうだ。

 

 

 

【為替・債券(国債)市場】

◆人民元に下落リスク

短期的には米国の金融引き締め観測を背景に米ドルの下落は考えにくく、人民元は米ドルに対して下落しやすい。また、日銀の長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の修正後、当面は日銀による追加引き締め措置は出ないとの観測が出ており、短期的には円に対しては人民元は上昇余地がありそうだ。

 

 

◆債券利回りはもみ合いながら低下する展開

中国経済のゼロコロナ政策撤廃後の回復ペースは一段と鈍化したものの、市場の一部では景気支援への期待が続いたことで、中国国債利回りはもみ合いで推移した。目先は政策期待が残り利回りに一時的に上昇圧力がかかる局面も見込まれるものの、実際には大規模な財政政策による景気支援の実施は難しく、追加利下げなど金融緩和の継続がより意識されやすいと想定し、中国国債利回りはもみ合いながら低下する展開を予想する。

 

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

中国<マクロ経済動向>

⇒循環的な景気モメンタムは低下。

 

◆総合PMIが明確な低下傾向

非製造業購買担当者景気指数(PMI)の低下を背景に7月の総合PMIは51.1と前月から1.2ポイント低下した。製造業PMIは49.3と4ヵ月連続で50割れとなった。内需・外需共に需要不足になっていることが製造業下振れの主因だ。雇用は48.1へ更に低下しており、労働市場の悪化を示唆している。中国では社会安定のため失業者をなるべく抑制する傾向があり、企業は雇用機会の確保と引き換えに賃金を抑制するため、ディスインフレに陥り、消費持ち直しペースが緩やかにとどまっている。住宅価格の下落に伴う負の資産効果も消費を抑制する要因となっている。一方、非製造業PMIではサービス業も建設業も低下した。7月には猛暑に見舞われたため、サービス業、建設業いずれもマイナスに影響したようだ。

 

 

◆デフレ局面

23Q2のGDPデフレーターは前年同期比▲1.4%と、20Q2以来のデフレとなった。需要が低下することで需給ギャップが拡大しているためであろう。需要不足の主因は、複合的な住宅需要の低下によって住宅市況が長期的な下落局面に入ったことであろう。需要不足が早期に解決できない環境下では、需給ギャップはなかなか縮小しないため、短期的にはディスインフレに戻るにしても、長期的なデフレ圧力は続くだろう。

 

 

◆不動産センチメントは弱い

政府が取りまとめている不動産センチメント指数は2022年1月以降、急速に悪化し、明確な改善に至っていない。このきっかけは、2021年10月23日に全人代(国会に相当)常務委員会が一部の都市で不動産税を試験導入すると決定したことにあろう。中国の家計にとって住宅は最も重要な資産であり、不動産税導入の懸念は、人口動態の変化に伴う30歳前後(1軒目の住宅を購入する年齢と言われている)の人口が減少傾向にあることと相俟って、不動産センチメントを悪化させている。その結果、住宅価格の下落は、負の資産効果を通じて、消費の抑制要因となっていると判断する。

 

次ページ中国<党中央政治局会議>

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