騒動の概要
連日ニュースを賑わせているビッグモーター問題。自動車保険の不正受給問題に端を発し、損保ジャパンの関与や、 7月25日の会見での兼重宏行社長の言動等、多くのことが話題になっています。また、同日の会見では、兼重社長及び同氏の長男の兼重宏一副社長が、ビッグモーターを辞任することを明らかにしました。
もっとも、報道によれば、両氏は、ビッグモーターを辞任するものの、資産管理会社であるビッグアセットの取締役は辞任しないこと、ビッグアセットはビッグモーターの株式をすべて保有するといわれています*。
*編集部注:令和5年7月31日時点での報道等に基づく情報を前提に、あくまで事実関係については仮定的な前提での考察になります。
このような場合、兼重親子がビッグモーターを辞任したこととビッグアセットを辞任しなかったことがどのような影響を与えるのか、法律的な観点からみていきましょう。
社長・副社長辞任によって兼重家が負うダメージ
社長・経営者は法律上、会社にとってどのような存在?
「株式会社は誰のものなのか?」
――この質問に対する回答として、皆さんはどう答えるでしょうか。法律の世界では、株式会社は株主のものとされています。そのなかで株主は、会社に対し、出資の義務を負い株式を保有する一方で、会社の債務について責任を負わない「有限責任」であるとされています。
コーポレート・ガバナンスの観点から望ましいとされる、会社の所有者である株主と経営者である社長をわけるべきという考え方、いわゆる「所有と経営の分離」という考え方は、この有限責任であるということを正当化する根拠のひとつとしています。簡単にいえば、株主自身が経営を行わない・経営から離れることを正当化する代わりに、その責任を限定的にした、と考えることができるのです。
では、社長・経営者は、法律上、会社にとってどのような存在といえるでしょうか。彼らは、所有者である株主から、経営の専門家として会社経営を委任され、それに基づいて職務を行っている立場に過ぎないと考えられています。
そして、株主が有する権利として、大きく「自益権」、「共益権」という2つのものがあります。自益権は株式から株主が経済的利益を得る権利であり、共益権は、株主が会社経営に参与し、取締役等の行為を監督是正する権利です。株主は、株主総会を通じて議決権を行使したり、会社に関連する訴訟を起こすことのできる権利を持つことによって、経営に参与する権利を有しているのです。
ビッグモーターにとっての社長・副社長の兼重親子
では、ビッグモーターの場合についてみてみると、どうなるでしょうか。これまで、ビッグモーターの社長・副社長を兼重親子が務め、株主はビッグアセット(同社社長らは兼重親子)でした。そのため、株式会社でありながら、「所有と経営の分離」はなく、事実上「所有と経営の一致」の状態であったといえるでしょう。
今回、ビッグモーターの経営から兼重親子が離れることにはなりましたが、依然ビッグモーターの株主であることに変わりはありません。そのため、ビッグアセットが共益権を有する(=会社経営に参与する権利を有する)状態には変わりがないということができるでしょう。
もちろん、共益権を有するからといって、これまでとなにも変わらないということはありません。株主総会という正式な法的手続きを踏んだ場面での意思表明によって意見をいう必要があり、日々の細かい経営判断・方針決定は新しい社長等によって行われます。すべての会社の活動に関与できる状態ではなくなったと一般的に考えることはできますが、他方で、未だビッグモーターに関する経営上の影響力をゼロにするということにはなっていません。