(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢化の進展で、介護問題を抱える人が増えている。最近では介護する側・される側双方の負担を軽減する介護サービスも充実してきているが、家族のなかに介護負担の偏りがあるケースも、いまだ多いといえる。ケース例から見ていく。

子どもと同居の高齢者世帯、大きく減少の一方で…

神奈川県に暮らす50代の博美さん(仮名)は、要介護2の実父を自宅介護している。父は認知症が進行し、いまは徘徊などもみられることから、目が離せない状況だ。博美さんは独身で、専門学校を卒業後、両親と同居しながら都内のショップに勤務していたが、博美さんが30代のときに母が急死したことで、なし崩し的に父親の身の回りの世話をすることになった。その後も父親の世話と仕事を両立していたが、博美さんが40代後半になったころから、次第に父親の様子に変化がみられ、病院で認知症との診断が下された。

 

その後、コロナ禍となり、勤務先のショップが倒産。博美さんは無職となり、いまは認知症を患う父親の世話に追われている。

 

「この生活も2年になろうとしています」

 

博美さんはつぶやく。

 

「もとをただせば、就職後も独立せず、親元にいた自分が悪いのでしょうね。でも、甲斐甲斐しく父の面倒を見ていた母が亡くなり、お湯も沸かせない父と2人残されたら、私が母の代わりに面等を見るしかありませんでした」

 

「父を、独身や無職の言い訳にしてはいけないとは思いますが…」

 

厚生労働省『令和3年国民生活基礎調査』によると、子と同居する高齢者は1,384万2,000人。そのうち、子夫婦と同居するのが361万9,000人、配偶者のいない子と同居するのが1,022万3,000人。子夫婦と同居する高齢者の割合は明らかに減少しているが、配偶者のいない子と同居する高齢者の割合は増加傾向にある。

 

◆子と同居する65歳以上の人の推移

 

〈1989年〉

853.9万人(60.0%)/ 601.6万人(42.2%)/ 252.4万人(17.7%)

 

〈1998年〉

1,037.4万人(50.3%)/ 644.3万人(31.2%)/ 393.1万人(19.1%)

 

〈2010年〉

1,257.7万人(42.2%)/ 520.3万人(17.5%)/ 737.4万人(24.8%)

 

〈2019年〉

1,352.7万人(35.9%)/ 375.6万人(10.0%)/ 977.1万人(26.0%)

 

〈2021年〉

1,384.2万人(36.2%)/ 361.9万人(9.5%)/ 1,022.3万人(26.8%)

 

出所:厚生労働省『令和3年国民生活基礎調査』より抜粋

※ 数値左より子と同居する高齢者の人数/子夫婦と同居する人数/配偶者のいない子と同居する人数。( )内は65歳以上の人全体に占める割合。

親と同居の独身の子ども、介護の担い手になるケースが多数

国立社会保障・人口問題研究所『全国家庭動向調査』によると、「年をとった親は子ども夫婦と一緒に暮らすべきだ」の問いに対する賛成割合も、低下傾向となっている。2008年には50.8%だったが、2013年は 44.6%、2018年は 34.3%。また「年老いた親の介護は家族が担うべきだ」への賛成割合も同様で、2008年63.3%、2013年では 56.7%、2018年では 11.5ポイント低下し 45.2%となっている。

 

介護に対する考え方も変化している。

 

厚生労働省『2019年 国民生活基礎調査』から、要介護者と介護者との関係をみていくと「同居」は54.4%で前回2016年調査から4ポイントほど減少。続柄ごとも、

 

「配偶者」25.2%→23.8%

「子ども」21.8%→20.7%

「子の配偶者」9.7%→7.5%

 

と、いずれもわずかではあるが、減少傾向だ。

 

しかし「別居」の場合の続柄をみると、「別居の家族等」12.2%→13.6%、「事業者」13.0→12.1%と、「別居はしているものの、家族の手を借りている」項目のみ増加傾向だった。

 

子世帯、親世帯とも別居を選択したとしても、介護となれば、近くに住む家族を頼るということか。

 

ちなみに、同居の場合の介護者は「男性」が35.0%、「女性」が65.0%と、女性の介護者が圧倒的多数。配偶者の介護では、女性のほうが男性よりも平均寿命が長いことが影響していると思われ、親の介護では、有業率の低い女性に役割が回ってくるケースが多いと考えられる。

要介護者の急増で「お金があっても施設に入れない」ことも

上記の博美さんだが、父の年金収入は毎月17万円ほどだという。厚生年金受給者の平均年金額は65歳以上男性で平均17万円程度だから(厚生労働省)、まさに平均額である。サラリーマンであったことから、サラリーマンだった父にはそれなりの貯蓄もあるが、将来のため手を付けることにためらいがあるという。

 

「私はコロナで失職し、就職しようにも父の面倒があるので難しいのです。いまは父の年金でギリギリ2人食べている状態です」

 

「私には千葉県在住の兄がいるのですが、頼りになるどころか〈無職なんだから、感謝して恩返ししろよ〉と、まったくの他人事です。父が死んだら収入がなくなるわけですから、〈働くために施設に入れたい〉といったら、兄嫁が父の頭をなでながら目を潤ませて〈お義父さん、寂しいね〉〈家族が見放したらかわいそう〉と…。年に1回、数時間の滞在のくせに、なんなんでしょうね」

 

兄夫婦の言葉にどす黒い怒りが込み上げてきたという博美さん。母が元気だったころは、ショップの仕事が楽しくて夢中で働き、いずれはお付き合いしている人と結婚して…と、ぼんやり将来を思い描いていたというが、人生、どんなきっかけで想定外の展開になるかわからないものだ。

 

前出の厚生労働省の調査から介護時間が「ほぼ終日」となる同居の場合の介護者と要介護者についてみていくと、「夫を介護する妻」が最多で40.9%。「親を介護する子ども(女性)」が19.8%。「妻を介護する夫」が14.0%、「親を介護する子ども(男性)」が11.8%と続く。

 

一方で、いくら介護サービスや介設利用への抵抗感は減ったとしても、需要に供給が追い付かず「介護サービスを受けられない」「介護施設に入れない」といった、いわゆる「介護難民」の問題も深刻化している。

 

今後の日本において、これらの問題はさらに深刻化するだろう。国家的な対策が急がれる。

 

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