(画像はイメージです/PIXTA)

そろそろ定年が近づいてきたが、退職後の生活を考えると不安で仕方がない…。そのような方はとても多いと思います。ここでは、60代の老後資金における厳しい現実と、理想の60代の生き方についてみていきましょう。FP資格も持つ公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

60代、老後資金の厳しすぎる問題

生徒:先生、老後のいちばんの不安は、お金がなくなることだと思っています。60代から老後資金の問題が発生してくると聞いたのですが、どのような問題でしょうか。

 

先生:定年退職することによって給料がもらえなくなること、年金の受給を開始できる65歳まで年金がもらえないことが問題となりますね。

 

生徒:定年退職しても65歳までは働き続けるべきでしょうか?

 

先生:その通りですね。現在、60代前半の約7割、60代後半の約半分の方が、働き続けることを選択しています。大企業では、60歳で定年退職となっても、それ以降は再雇用という形で会社に残り、5年間、継続して働くことができる会社が多いようです。ただし、再雇用された後の給与は減らされますが…。

 

生徒:どれくらい給与が減らされるのでしょうか。

 

先生:再雇用後の給与が、それまでの半分以下になる会社がほとんどですよ。

 

生徒:それなら、年金収入を頼りにするしかないでしょうか。

 

先生:年金収入についても今後は不安がありますよ。社会保険制度が改正され、保険料を納める年齢や、年金を受給できる年齢が、後ろ倒しになる可能性が高いといわれているのです。現在の制度では、国民年金の保険料の支払いは20歳から60歳の40年間。しかし今後、65歳まで延長される可能性があります。仮に65歳まで延長されるとすれば、国民年金の保険料は毎年約20万円で、それを5年分追加支払いするから、一生涯で100万円もの大きな負担増加となります。

 

生徒:えっ、そんなに増えるんですか!

 

先生:日本人の平均寿命は年々延びていて、1人当たり一生涯受け取る年金額は年々増えてきています。年金の受給開始年齢は、いずれ70歳に引き上げる可能性が高いと考えるべきですね。

 

生徒:老後生活は厳しいですね…!

 

★定年退職後の60代の生き方についてはこちらをチェック!

【年金と老後】定年退職後どう生きる?60代の年金生活の現実と解決策

絶対NG!…無職になる、年金繰上げ受給、貯蓄取り崩し

先生:絶対にやってはいけない60代の生き方があります。それは「働くのをやめ、年金の繰上げ受給と貯蓄の切り崩しによって、生活する」こと。近年は70代でも働き続ける人が増えていますが、老化の影響もあり、体力的な問題から働きにくくなるのが現実だといえます。元気な60代のうちに老後資金を取り崩してしまうと、老後資金が枯渇してしまい、取り返しのつかない状況となってしまいますよ!

 

生徒:年金の繰上げ受給を行わないほうがいい理由を、具体的に教えてください。

 

先生:60歳で繰上げ受給を開始したとすると、1ヵ月あたり0.4%減額されるから、60カ月で24%も減額されてしまいます。もらえる年金が一生涯にわたって4分の3の水準まで減らされてしまうということになります。

 

生徒:それでは老後生活が苦しくなりますね…。

 

先生:ほかにもデメリットがあります。老齢年金の繰上げ受給を行おうとする場合、「障害年金」と「寡婦年金」への悪影響があるんですよ。

 

生徒:障害年金、寡婦年金とはどのようなものでしょう?

 

先生:「障害年金」とは、病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代の方も含めて受け取ることができる年金です。障害等級が2級以上であれば、老齢年金よりも多くもらうことができます。一方の「寡婦年金」というのは、夫が国民年金を受け取る前に亡くなった場合に、その妻が60歳から65歳になるまでの間にもらえる年金です。夫が国民年金保険料を支払っていた期間分に相当する年金額の4分の3の金額をもらうことができます。

 

生徒:それは助かりますね。

 

先生:ですが、いったん老齢年金を繰上げ受給すると、その後に障害状態になっても、障害年金も、寡婦年金ももらえなくなってしまうんですよ。

 

生徒:それならば、繰上げ受給しないほうがいいですね。

理想の60代の生き方…会社員として働き、給与収入で暮らす

先生:私がおすすめする理想の60代の生き方は、可能な限り長い期間を会社員として働き、その給与収入で老後生活を送ることです。働くこと自体が健康を保つ上での要素にもなりますし、活動的な生活は認知症予防にもつながります。それに加え、国民健康保険ではなく、協会けんぽなどの健康保険への加入を続けることによって、「傷病手当金」がもらえることがメリットだといえます。

 

生徒:傷病手当金とはどのようなものでしょうか?

 

先生:傷病手当金とは、病気やケガで連続3日以上働けないとき、連続3日の休業期間があれば、4日目からもらえるお金のことです。報酬の3分の2が支給されます。たとえば、月給30万円の人であれば、日給1万円と換算して、その3分の2、つまり1日あたり6,667円もらえることになります。

 

生徒:それは助かりますね。

 

先生:これに加えて、70歳までは厚生年金の保険料を支払い続けることができるんですよ。厚生年金は70歳までが加入対象となっていて、60歳を過ぎて加入期間が増えることで、将来受け取る年金額を増やすことができます。

 

生徒:65歳以上で厚生年金に加入して働きながら、その一方で老齢厚生年金の受給を開始される方はどうなるんですか?

 

先生:そこはとても重要なポイントですよ。在職老齢年金制度によって、受け取る年金額がカットされる可能性があるので、注意が必要です。つまり、働きながら同時に年金を受け取ると、一部の年金が減額される可能性があるということですね。

 

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知っておきたい!「211万円の壁」への対処法

生徒:よく聞く「211万円の壁」とはどのようなものですか?

 

先生:いい質問です! 211万円の壁とは、大都市で年金生活を送る夫婦が、住民税非課税となる基準の収入額が211万円になっているということです。

 

生徒:住民税が非課税になるのは助かりますが、それ以外にメリットがあるのでしょうか?

 

先生:国民健康保険や介護保険などの社会保険料が安くなること、医療費が高額になったときの高額療養費で返金額が高くなること、自治体によっては公共交通機関や公共施設で無料になったり割引が受けられたりすること、市区町村の支援金の対象となりやすいことがあります。

 

生徒:それは便利ですね。211万円を超えないようにするために、年収を下げるべきでしょうか?

 

先生:いいえ、それはよくありません。むしろ211万円を上回る収入を稼ぐ努力をするべきです。なぜなら、年金の繰上げ受給などを行って年収を下げてしまうと、結果的に老後の年金収入を下げてしまい、老後の生活水準を下げざるを得なくなるからです。

 

生徒:わかりました。ありがとうございました。

 

 

岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

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