【タワマン節税問題】国税庁、高層マンションの相続税算定ルール見直しへ…新しい計算方法ではどうなる?〈相続専門税理士が解説〉

【タワマン節税問題】国税庁、高層マンションの相続税算定ルール見直しへ…新しい計算方法ではどうなる?〈相続専門税理士が解説〉
(画像はイメージです/PIXTA)

相続税対策の王道ともいえる賃貸不動産の購入。なかでも高層マンションの上層階を活用した節税は「タワマン節税」として富裕層の人気を集めていました。しかし近年では、この手法を狙い撃ちしたともいえる税制改正のニュースがあり、今後の行方が気になるところです。FP資格も持つ公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

タワマン、実勢価格と相続税評価額が「5倍差」のケースも…

生徒:最近ニュースで「マンション節税」や「タワマン節税」の防止に向けて国税庁が相続税の算定ルールを見直す話を聞きましたが、具体的にはどういう話なんでしょうか?

 

先生:重要なのは、国税庁が「マンションの評価額と実勢価格との乖離(かいり)が約1.67倍以上の場合に評価額が上がり、高層階ほど税額が増える」として、新たな計算式を導入しようとしている点だね。

 

生徒:なるほど。税制改正が行われようとしているわけですね?

 

先生:現行の相続税評価のルールは、1964年の国税庁通達に基づいているんだけれど、マンションの時価を適切に反映できるようなルールになっていなかったんだ。特に、タワーマンションの相続税評価額とその実勢価格との間に5倍なんていう大きな乖離が見られるようになったので、それを解消するために新たなルールが提案されたんだよ。

 

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相続財産の評価は「時価による」…相続税法の実態

生徒:現行のルールだと、相続税の計算はどのように行われるんですか?

 

先生:相続税法では、相続財産の評価は「時価による」と規定されているんだ。具体的には、土地や建物の評価は難しいから、建物は自治体が算定する固定資産税評価額を使用し、土地は路線価を使って評価額を計算し、それらを合計するんだ。そして、その評価額に10%から55%の税率を掛けて相続税額を計算するという流れだね。

 

生徒:それなら、新たなルールはどのようになるのでしょうか。

 

先生:新たなルールでは、実勢価格を反映する指標が導入される見込みだね。具体的には、築年数や階数などに基づいて相続税評価額を計算した上で、実勢価格との乖離の割合、すなわち乖離率を計算するんだ。その乖離率が1.67倍以上の場合、従来の相続税評価額に乖離率と0.6を掛けることになるね。結果的に、相続税評価額は引き上げられるはずだね。

 

[図表]新ルールでの相続税評価額

 

生徒:具体的にどのように計算するのですか?

 

先生:計算例を考えてみようか。たとえば東京都内の築9年の43階建て高層マンションの23階を想定してみよう。1億1900万円の実勢価格に対して相続税評価額が3,720万円となっているようなケースは一般的だね。乖離率を計算すると、1億1,900万円を3,720万円で割って3.2倍になる。新たなルールでは、相続税評価額3,720万円に乖離率3.2と0.6を掛けた7,140万円が相続税評価額になるんだ。

 

生徒:乖離率と0.6を掛けるって難しい計算ですね。

 

先生:いや、難しくないよ。乖離率を掛けるというのは、実勢価格の倍率を掛けるだけだから、実勢価格に戻すということだね。それに0.6を掛けるというのは、単純に実勢価格の60%で評価するということだよ。60%で評価した場合の乖離率は、100%÷60%で1.66倍になるけれど、これは一戸建ての平均的な乖離率ということらしいね。

 

生徒:なるほど。全国のマンションの乖離率はどうなんでしょうか?

 

先生:国税庁によれば、全国の20階以上のマンションの乖離率は平均3.16倍だったんだ。つまり、新しいルールの基準となる1.66倍を大きく上回っていたということ。新しいルールに変わると、大半の住戸で相続税負担が増えることになるだろうね。

 

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見直しのきっかけとなった、2022年の最高裁判決

生徒:でも、なぜ今までそのような乖離があったんですか?

 

先生:それは、高層マンションの場合、全体の敷地面積を戸数で分けるために、戸数が多いタワーマンションであるほど、1戸当たりの土地の持ち分は小さくなるよね。これが原因だね。

 

生徒:いま港区や中央区のタワーマンションの数がものすごく増えてきましたが、これらを相続財産として所有しておくと有利だということですね。

 

先生:そうだね、高層階ほど眺望も良くて実勢価格が高くなるから、相続税評価額の差が、高層階になるほど大きくなるんだ。この差を利用した節税策は「マンション節税」や「タワマン節税」とも呼ばれていて、相続税負担の不公平性が問題視されていたんだね。

 

生徒:それが改善されるきっかけは何だったんですか?

 

先生:2022年の最高裁の一つの判決が大きなきっかけと思うよ。タワーマンションというわけではないけど、13億円で購入したマンション2棟を、3億円という低い相続税評価額で申告した相続人に対し、不動産鑑定評価額が12億円だとして、国税当局の追徴課税を認めた判決だね。判決理由では「他の納税者との間に看過しがたい不均衡が生じ、租税負担の公平に反する」と書かれていたんだ。

新ルール、タワマンの売れ行きにも影響の可能性

生徒:新しいルールに変わると、高層マンションに係る相続税負担が重くなるので、タワーマンションが売れなくなりそうですね。

 

先生:そうだね。このルール変更だけで相続財産の評価が3,400万円増えることになるから、仮に税率を20%とすれば680万円、50%とすれば1,700万円も相続税が増えてしまうことになるね。

 

生徒:税制改革の必要性について、より深く理解することができました。ありがとうございました。

 

 

岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

 

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