(※写真はイメージです/PIXTA)

資産形成の手段として株式投資を考える人は少なくありませんが、実際に売買する段階になっても、株価に関する基本的な判断基準が身についていない方も多いようです。ここでは最低限知っておきたい株価の評価指標「PBR」についてみていきましょう。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

PBRの出発点は「1倍」

株価が割高なのか割安なのかを考える際に最もよく使われるのはPER(Price Earnings Ratio、株価収益率)ですが(『【日本企業なら15倍程度】株価の適正水準を見極める指標「PBR」活用の基礎知識』参照)、それと並んで重要なのはPBR(Price Book-value Ratio、株価純資産倍率)と呼ばれる指標です。

 

これは「株価が1株あたり純資産の何倍で取引されているか」という倍率を示したものです。1倍ならば、1株あたり純資産と株価が等しい、というわけですね。

 

純資産というのは、自己資本とも呼ばれますが、貸借対照表の右下部分で、資本金と内部留保を合計したものです。資本金は株主に出してもらった資金で、内部留保は本来株主に配当すべき利益を会社に残してあるものですから、どちらも株主のものです。

 

会社が解散するときには、資産を売却して負債を返済して残りは株主に返すことになりますから、理屈上は一株あたり純資産と同額を株主が受け取ることになるはずです。そうであれば、PBRは1倍であるのが普通だといえるはずです。

 

余談ですが、会社が儲かったときに、配当してくれれば株主は嬉しいですが、配当せずに内部留保してくれれば、一株あたり純資産が増えて株価に上昇圧力がかかります。その意味では、株主にとっては会社が儲かることが大事なのであって、配当してくれるか否かはあまり重要ではない、ということがいえそうです。

 

ちなみに、会社が解散するときには資産が貸借対照表に載っている通りの値段で売れるとは限りません。不良在庫を大量に抱えていたり、戦後の安いときに購入した土地を大量に持っていたり、様々なケースがあり得るでしょうが、本稿ではそうしたことは考えないことにしましょう。

 

買ったばかりの自動車でも、中古車として売れば安い値段でしかつきませんから、本当に会社が解散するならば、一株あたり純資産は戻って来ない場合も多いと思いますが、実際には会社は解散せず、買った自動車が利益に貢献する場合も多いでしょうから、そうした点も本稿では考えないことにしましょう。

PBRが1倍を上回る部分は「見えない資産」の価値

日本企業のPBRは1倍を下回っているケースも多いですが、理屈上は上記にかかわらず1倍を少し上回るのが普通です。それは、企業には貸借対照表に載っていない「見えない資産」があるからです。

 

企業にはノウハウや信用等、貸借対照表には載っていないけれども利益に貢献している資産があります。企業が解散すると消えてしまいますが、実際には企業は解散せずに活動を続けるわけですから、投資家たちはそうした資産の価値も考慮して株式を売買しているわけです。

 

見えない資産について別の角度から考えると、創業赤字は見えない資産を獲得するための費用だ、ということになります。会社設立当初はノウハウも知名度も信用も乏しいので、赤字になりますが、時間とともにノウハウ等々が得られ、黒字が稼げるようになるのが普通です。

 

それまでの間の赤字は覚悟の上で起業するわけですが、それはノウハウ等が将来の利益をもたらすと期待しているからです。創業赤字というコストを払っても獲得したいノウハウ等が得られたのであれば、株価はそれを織り込むのが自然だ、というわけですね。

企業ごとの差が大きいPBR、大不況時も大きく変動しないPBR

PBRは、企業により大きく異なる場合がありますので、注意が必要です。たとえば「塚崎経済研究所株式会社」が上場していて、資産はパソコン1台だけだとします。そこそこの原稿料収入を稼いでいるとすれば、ある程度の株価が付くでしょうが、一株あたり純資産はパソコン1台購入するための費用を株主から資本として調達しただけですから、非常に小さいわけで、PBRは非常に高くなっているかもしれません。

 

将来の成長が見込まれる企業も、PBRが高くなりがちです。将来の売り上げも利益も純資産も今より遥かに大きいとすれば、株価はそれを見込んで高めになるでしょうから。

 

一方で、従来型の装置産業であれば、資本金もそこそこ大きいでしょうから、PBRがそれほど高くなることは無さそうです。もっとも、それでもある程度は高くなるかもしれません。たとえば資本金を小さくして銀行借入を多くしている場合であるとか、機械器具を買わずに借りている場合などは、機械器具をすべて資本金(および内部留保)で購入している場合と比べてPBRは高くなりがちだからです。

大不況時、PERは要注意だが、PBRの変動はそれほどでも…

PERに関しては、大不況時には要注意です。利益が極端に減少したり赤字になったりすると異様な数字になりかねないからです。

 

しかし、PBRに関しては、そうした心配はありません。純資産は資本金と長期間にわたる過去の配当後利益の積み重ねですから、一回くらい配当後利益が激減したりマイナスになったりしてもそれほど大きくは変動しないからです。

適正水準の議論、短期投資には不向き

PBRを同業他社や過去の自社と比較して株価が割高か割安かを判断し、投資すべきか否かを考える材料とするわけですが、これは長期投資の話なので、短期投資をする際にはPBRのことは忘れましょう。

 

株価は、市場のムードで大きく上がったり下がったりしますし、特に下がり始めると更に下落する圧力が働く場合も少なくありません。そんなときに、「株価が下がってPBRが割安だと示唆しているから買おう」と考えて買うと、更に値下がりして投げ売りせざるを得なくなる可能性もあるからです。

 

買った株がさらに値下がりしても狼狽売りをせずに「長期間持っていれば、割安が修正されるだろうから、それまで待とう」と考える人は割安銘柄を買えばいいのでしょうが、短期間の値動きで売り買いする人は、PERやPBRで判断するのは危険かもしれません。気をつけたいものです。

 

本稿は以上ですが、投資は自己責任でお願いします。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。

 

筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「幻冬舎ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「幻冬舎ゴールドオンライン」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。

 

 

塚崎 公義
経済評論家

 

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