見るべきは、配当利回りより「益利回り」
株式投資の「配当利回り」を気にする人は多いのですが、理論的には「配当利回り」よりも「益利回り(一株あたり利益額を株価で割った値)」のほうが重要です。配当すればその分だけ会社の財産が減るので、株式の価値(あるべき株価)が下がるわけで、株主としては利益が配当されても内部留保されても同じことだからです。
企業が7円の一株あたり利益を稼いだとして、7円を配当すれば企業の純資産は変わりませんから、株式の価値は変わりません。一方で、企業が配当せずに7円を内部留保すれば、会社の一株あたり純資産が7円増えますから、純資産から考えた「あるべき株価」は7円上がります。
ちなみに、株価自体は変動しますが、株式市場全体の雰囲気等々によって「あるべき株価」の周りを上がったり下がったりするわけですから、本稿ではそうした株価変動のことは忘れて、株価のあるべき水準について考えましょう。さらに、簡単にするため、株価は一株あたり純資産と同じ(PBRが1)だということにしましょう。
PERが15倍なら、益利回りは7%弱
株価が割高か否かを判断する材料として「PER」が有名です。これは、株価が一株あたり利益の何倍か、という割り算の結果で、日本株のPERは15倍程度が普通だと言われています。PERに関しては、拙稿『【日本企業なら15倍程度】株価の適正水準を見極める指標「PBR」活用の基礎知識』を併せてご参照いただければ幸いです。
PERが15倍ということは、一株あたりの利益が7円の会社の株価は105円程度が普通だ、ということですね。これを逆から見れば、株価の7%弱が利益だということですから、益利回りが7%弱だということになります。
上記のように、一株あたりの利益が7円の会社は、配当しても内部留保しても株主の利益の期待値は7円ですから、投資効率は預金よりはるかによいといえそうです。これは、株価が割安であることを意味している、という見方も可能でしょう。
株のリスクだけでなく「預金のリスク」にも注意を!
株式投資の効率がよいとしても、株価が暴落するリスクを考えると怖くて手が出せない、という人も多いと思います。しかし、そうした人が多いから、株価が安いまま放置されていて、すこしだけ大胆(臆病度合いが少しだけ少ない)な投資家が高い投資効率を享受出来ている、ということなので、投資をしないのはもったいないと筆者は考えています。
過去数十年の株価のグラフを眺めれば、株価は暴落することがあっても、長期的には戻ってきた、ということがわかります。「次の暴落だけは戻らない」と信じる根拠はとくにないでしょう。
ちなみに、日本株をバブルのピークで買った人は、買値を回復していないかもしれませんが、その間の配当収入を考えれば元はとれているはずです。個別株は色々でしょうが、投資信託ならば上がった株も下がった株も含まれているでしょう。さらに言えば、積み立て投資をしていれば、安いときも高いときも買っているはずなので、取得単価は現在の株価より低い場合が多いのではないでしょうか。
もうひとつ、「預金もリスク資産だ」という認識が重要です。インフレが来たら、預金は目減り(買える物の量が減る)してしまいますから。それに備えて金融資産の一部をインフレに強い株や外貨に換えておくほうが、むしろ安心かもしれません。実際には、株そのものではなく、米国株の投資信託を毎月積み立てる、というほうがさらに安心だと思います。
筆者が心配しているインフレは、2種類です。1つは少子高齢化による労働力不足で賃金が上がってそれが売値に転嫁されるインフレです。これは、長期的に見れば結構高い確率で起きるでしょう。毎年1%ずつインフレになれば、30年で預金が3割目減りするわけですから、対策が必要ですね。
もうひとつは、南海トラフ大地震です。東京等が壊滅的な被害を受ければ、復興資材の輸入代金を支払うためのドル買いが殺到し、ドルが高騰するでしょう。そうなれば、輸入品はすべて高騰することになるわけです。
労働力不足のインフレに備えるだけならば、日本株(実際には日本株の投資信託)でいいのでしょうが、南海トラフ大地震のリスクを考えるなら、日本株より米国株のほうが安心かもしれませんね。
「割安だから上がる」とは限らないが…
今後も投資家たちが臆病(慎重?)であり続けるならば、「益利回り7%」は続くかもしれません。つまり、「有利な投資商品だから皆が買うから値上がりするはずだ」とはいえないわけです。したがって、短期投資で「値上がりしたら売り抜けよう」と考える場合には、いくら益利回りが高いからといって、買えば儲かるとは限りません。
しかし、長期投資であれば、配当を受け取り続ければ、株価が上がらなくても満足でしょうし、内部留保によって一株あたり純資産が増え続けていけば、いつかは株価も上がるでしょう。PBR(株価を一株あたり純資産額で割った値)が下がり続けることは考えにくいでしょうから。
本稿は以上ですが、投資は自己責任でお願いします。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。
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塚崎 公義
経済評論家
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