決算書の「書き方」を意識している人は少ない
前回の続きです。決算書の内容は格付けに大きく影響するものなのですが、その割に、決算書の内容に関心が薄い経営者が世の中にはとても多いようです。たとえば、気付かぬうちに評価の下がるような書き方をしている場合もあります。
【Case Study】決算書の書き方
AさんとBさんは、ともに5店舗の居酒屋を経営しています。近々7店舗まで増やすために、設備資金を銀行から借り入れようと考えており、融資の申請に必要な決算書など関連資料の準備をしています。
Aさんの場合
Aさんのお店は5店舗ともに経営は順調だったので、これまでもお付き合いのある銀行にプロパー融資を相談することにしました。税理士に決算書を揃えてもらって提出したところ、なんとか融資を受けることはできましたが、返済期間や金利の条件は、Aさんの予想よりも厳しいものでした。
その後、7店舗に広げたAさんは、月々の返済が厳しく資金繰りに苦労することになりました。
Bさんの場合
Bさんは銀行に融資を申請する前に「本当にこの決算でいいのかな」と考え、決算書が完成する前にコンサルティング会社に相談しました。そして、格付けのシミュレーションをおこなってみると、Bさんの会社の格付けは6と判定されました。そこで決算書の内容をもう一度見直してみたところ、PL、BSの数字の書き方をもっと見映えよくできることがわかったのです。
問題点を修正した内容でもう一度シミュレーションしてみると、格付けが6から5に上がり、Bさんは自信をもって銀行に融資を申請することができました。その後、無事によい条件で融資を受けることができ、7店舗とも経営は順調です。
うまくいく人、いかない人。そこには「決算書の書き方」の壁がありました。
実態は同じでも「魅せ方」次第で銀行評価は変わる
Aさんのお店も経営は順調なようでしたが、実は決算書の内容をよく把握できていなかったのかもしれません。Bさんのように、事前に決算書を見直していれば、現状の問題点もわかり、もっとよい条件で借り入れできる可能性もあったでしょう。一方のBさんは、決算書を見直して銀行の格付けを上げることに成功しました。数字の書き方を変えることで、決算書の見映えがよくなったのです。
私はこのような見映えのよい決算書のことを“魅せる”決算書と呼んでいます。「決算書の書き方なんてみんな同じ」と思っているかもしれませんが、実はとても重要なのです。
たとえば、あなたの目の前にカルボナーラパスタを盛りつけたお皿が2つ並べて置いてあると想像してみてください。1つのお皿にはパスタが美しく盛りつけられていて、もう1つは乱暴にただお皿に移しただけだとしたら、あなたはどちらを選ぶでしょうか。
材料は同じ。作り方も、作った人も同じだとすると、盛りつけ方が違っても同じ味がするはずです。でも、美しく盛りつけられているほうがおいしそうに見えませんか? そちらのほうを食べたいと思いますよね?
銀行に提出する決算書も、このカルボナーラパスタと同様に、実態が同じでもやはり盛り付けがきれいなほうがいいのです。どちらかというと、銀行もそちらを食べたい(=融資したい)と思うものです。銀行がお金を貸したいと思うような会社は、決算書に記載された数字もやはりきれいだと思います。
言い換えれば、現状はそれほどよい評価ではない決算書も、ちょっと盛り付けを工夫すると、銀行が貸したいと思う決算書に変わるかもしれません。実際、少し手を入れただけで金利が1%くらい下がったという会社もありました。
誤解しないでいただきたいのですが、これは「粉飾しましょう」と言っているわけでは決してありません。あくまで正しい処理を前提に、よりよく、より正しく見せる(魅せる)ほうがいいだろうということです。そして、魅せる方法はたくさんあるということをみなさんに知っていただきたいのです。
Bさんのように、決算書のPL、BSの数字を正しく整理しただけで、“魅せる”決算書に変わるケースはよく見受けられます。みなさんもぜひ、決算書を完成させる前に「本当に、この書き方が一番よいのか」を検討してみてください。内容を吟味し、より“魅せる”決算書となるような工夫をしていただきたいと思います。