企業の稼ぐ力を高め、賃上げに成功したスウェーデンモデル
内閣府の「諸外国の若者の意識に関する調査」で、「希望がある」と答えた割合が上位だったスウェーデンでは、ここ20年間で、賃金が50%も上がっています。賃金が上がる社会構造を、政府がつくったからです。
スウェーデンでは、業績が良い企業も悪い企業も、同じ賃上げが義務付けられています。すると、生産性が低い企業はさらに苦しくなりますが、政府は一切救済しません。日本人が聞けば冷酷に感じるかもしれませんが、「潰れる企業はどうぞ潰れてください」というスタンスなのです。
すると、本当に潰れる企業が出ますが、職を失った人は、生産性が高く業績が良い企業に吸収され、労働力の流動性が高まります。
NHKの特別番組「欲望の資本主義2022 成長と分配のジレンマを超えて」の中で、市民はインタビューにこう答えていました。
「働く人の期待は、常に高まっている。仕事はハードだけれども、同時に面白く楽しい。自分を発展させることができる」「もし、勤めている企業が倒産しても、その後仕事を得る可能性には、あまり影響ありません」
働く人たちは、再就職できるように自らを高める努力をするでしょうし、労働力の流動性が高まることで、多様な知恵や知識、経験も流通し、さらに企業の稼ぐ力が向上していきます。スウェーデンの政策は、単なる賃上げではなく、働く人たちに希望をもたらし、成長意欲をかき立てるものであり、企業の稼ぐ力を向上させるものなのです。
安易な賃上げに潜む危険性
2023年初頭に、ユニクロを展開するファーストリテイリングが、最大4割という思い切った賃上げを発表しました。それに続くように、イオン、セガ、大和ハウス工業、ロート製薬など、多くの企業が続々と賃上げ宣言を行いました。
世間に賃上げムードが高まった結果、中小企業でも、およそ6割が賃上げを実地しました。低賃金では採用が不利になったり、離職が増えたりする恐れがあるからです。しかし、これは悲劇の始まりかもしれません。安易な賃上げは、企業を衰退させる危険性をはらんでいるのです。
次の2つのケースが想定されます。
1.賃上げをしたが、固定費(人件費)が上がっただけで、社員のヤル気も企業の稼ぐ力も高まらない。
2.間違った賃上げで、かえって社員のヤル気と、企業の稼ぐ力が低下してしまう。
賃金を上げると、社員のヤル気が高まりそうですが、実はほとんど関係ありません。正確に言うと「一瞬だけ高まって、すぐに元に戻る」のです。賃金とはそういうものなのです。
経営の勉強をすると、アメリカの臨床心理学者、フレデリック・ハーズバーグが提唱する「衛星要因」「動機づけ要因」という、モチベーションに関する研究を学びます。
・「衛星要因」……労働環境、労働条件、福利厚生、対人関係、賃金など。
これらは、一定水準を下回ると不満が生まれ、モチベーションが下がり、生産性が下がることがあります。しかし水準を超えると、「あって当たり前」と思われることが多いのです。
つまり、多くの企業では、ただ単に賃上げをしても、働き甲斐も、ヤル気も変わらないのです。
・「動機づけ要因」……自分で決めることができる(任されている)、他者の役に立っているという実感、成長実感、チームで協働する愉しさなど。
仕事でこうしたものが得られると、働き甲斐が生まれ、仕事が愉しくなり(楽しいとはニュアンスが違う)、モチベーションが高まるとともに、豊かな創造性を発揮します。
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