前回は、災害リスクを証券化した「CAT債」における信用リスクと流動性についてお伝えしました。今回は、まとめとしてCAT債の将来性について語っていただきます。※本連載は、英領バミューダに拠点を置く運用会社Eastpoint Asset Management Ltd.の共同CEO兼CIOである新原輝久氏に、CAT債についてお話を伺ったインタビュー記事です。聞き手は、香港の新しい金融機関であるニッポン・ウェルス・リミテッド(NWB/日本ウェルス)のダイレクター、幾田朋彦氏です。
※本稿は2017年に掲載されたインタビュー記事をもとに、より最近の事情を反映すべく再編集されたものです。

期待損失を上回る大災害プレミアムが構造的に加わる

幾田 CAT債の金利には保険リスクに関わるリスクプレミアムや流動性プレミアムが乗せられていると思いますが、投資対象としての収益性をどのようにお考えですか?

 

新原 CAT債市場の金利スプレッドは資金流入により段階的に縮小してきましたが、依然モデル上の期待損失に対し2倍から3倍の水準で推移しています。CAT債の金利は、大災害時のファイナンスに対するプレミアムが構造的に加わり、基本的には期待損失を上回るリターンを獲得できる状態が続くと考えられます。一方で、流動性プレミアムやノベルティー(初物)プレミアムは、CAT債市場が成熟してくるにつれて、大方縮小してきていると見ています。

 

CAT債は、スプレッド水準がどのサイクルにあるにせよ、景気変動にエクスポージャーの高いポートフォリオや全体アセットにおけるリスク対比リターンを、より容易かつ効果的に改善できる有用な存在であるので、特に機関投資家にとっては不可欠な投資エリアとなりつつあります。

 

幾田 なるほど。市場が成熟した後でも、構造的に期待損失を上回るリターンが獲得できる機会があるということですね。ちなみに、債券により異なるかと思いますが、発行から償還までの期間というのは通常どのくらいあるものなのでしょうか?

 

新原 再保険契約では1年ロールが普通ですが、CAT債においては3~5年債が一般的です。発行体から見れば複数年でレートが固定できるメリットがあります。ポートフォリオ構築の面から見た場合、分散すれば平均残存は2-3年となるため、何もトリガーイベントがなければ、毎年全体の3割程度が償還により現金化されてくることになります。

なぜ英領バミューダがCAT債発行の中心なのか?

幾田 なぜCAT債はバミューダで活発に発行されているのでしょうか。

 

新原 まず1つは、バミューダが再保険市場として長い間地位を確立してきたという歴史があり、特に大規模自然災害の分野を得意とするエースやエクセル等の保険会社はバミューダで設立されました

 

また、CAT債が誕生した後に、バミューダ政府が市場でのプレゼンス(地位)を高めるために規制やインフラの設備にしっかりと取り組んだことも大きく影響しています。当初はアイルランド、ガンジーなども活発でしたが、CAT債の発行に関してはバミューダが主流です。

 

幾田 そういった背景もあってEastpoint社もバミューダに拠点を置いてらっしゃるということですね?

 

新原 はい、欧州と米東海岸の間にあるため、リアルタイムでセカンダリ市場に対応することが容易であることや、再保険関連に精通したプロフェッショナルが揃っていること、当局の理解が深いことなどの理由から、バミューダを拠点としております。

CAT債の社会的有用性もますます拡大へ

幾田 最後の質問になります。CAT債のマーケット規模は成長過程にあるということですが、今後数年のCAT債市場、方向性について、お考えをお聞かせください。

 

新原 CAT債は大災害を経るたびに大きく成長してきました。2017年、18年の災害群により、投資家も一定の負担を負い市場も軟化した一方で、ワイドニングしたスプレッド水準を背景にしっかりとした資金流入も見られています。大きな災害を混乱なく消化してきたことで、CAT債市場の信頼性もこれまで以上に高まったものと考えられます。再保険市場は、やや損失が大きかったので引受キャパシティがひっ迫気味でもあり、今後数年はCAT債市場が拡大をけん引する形になるのではないかと想定しています。

 

またここ数年では、再保険の範疇を超えたCAT債の利用も拡大してきています。例えば、中南米各国政府が大災害ファイナンスの一環で地震マグニチュードに基づいたCAT債を発行、世界保健機構(WHO)がグローバルなパンデミック、伝染病など勃発時の緊急ファイナンス手段としてCAT債を発行、などの例があります。今後は、大きな自然災害が度々発生している東南アジア諸国などにも動きが広がっていくと見られます。CAT債の社会的有用性がますます拡大していく中で、我々も市場参加者として様々な形で貢献していければと願っています。

 

本稿は、情報提供を目的として、インタビュー時点での経済データ等をもとに個人的な見解を述べたもので、Eastpoint Asset Management Ltd.およびNWBとしての公式見解ではありません。また、特定の金融商品への投資の勧誘を目的とするものではありません。

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