災害リスクを証券化した「CAT債」…元本が毀損する災害規模は?

前回は、災害リスクを証券化した「CAT債」の基本的な特徴についてお伝えしました。今回は、このCAT債で実際に元本が毀損する恐れのある災害規模とは、一体どれほどのものなのかを語っていただきます。※本連載は、英領バミューダに拠点を置く運用会社Eastpoint Asset Management Ltd.の共同CEO兼CIOである新原輝久氏に、CAT債についてお話を伺ったインタビュー記事です。聞き手は、香港の新しい金融機関であるニッポン・ウェルス・リミテッド(NWB/日本ウェルス)のダイレクター、幾田朋彦氏です。※ 本稿は2017年に掲載されたインタビュー記事をもとに、より最近の事情を反映すべく再編集されたものです。

東日本大震災で歴史上初「100%毀損」が発生した

幾田 自然災害と言うと、日本人にも馴染みあるのではないかと思いますが、例えば2011年の東日本大震災で影響を受けたCAT債はあったのでしょうか?

 

新原 CAT債の歴史で初めて個別銘柄が100%毀損したのが東日本大震災の時でした。逆に言えばそれまで一度も全損イベントはなかったのです。全損したのは全共連(JA共済)が発行したMutekiという銘柄1件で、地震加速度を基にしたトリガーをもつ債券でした。震災発生時にはその他の日本地震銘柄も同様に価格が下落しましたが、その後棄損に至らないことが認識されて値を戻しました。アメリカのハリケーンなど、元々日本地震と関連性のない銘柄群の価格の下げも、一時的なものに留まりました。

 

幾田 2017年や2018年も世界各地の様々な自然災害が話題となりましたが、CAT債市場への影響はいかがでしたか?

 

新原 CAT債市場も少なからぬ影響を被りましたが、通常の再保険などを含めた全体の中では、比較的穏やかな影響に留まったということができそうです。2017年は、アメリカを襲った3つの大型ハリケーンやカリフォルニア山火事などの災害が重なり、年間の合計保険損失としては2005年や2011年に匹敵する大災害年となりました。また2018年も前年対比で保険損失は半減しましたが、中規模の北米ハリケーン、カリフォルニア山火事、そして日本の台風被害などが被害をもたらしました。両年の特徴として、一つ一つの災害は巨大損失とまではいかなかったものの、累積合計した損失額は相当の水準に達したということが挙げられます。

 

CAT債市場では累積損失をトリガーとする債券も多く発行されているため、主にこの点で幾つかの銘柄は棄損に至っており、全体リターンもこの2年は低調なものに留まりました。しかしながら、CAT債のリスク水準は伝統的な再保険がとるリスク水準よりも一般的に低いため、保険リスク市場の中ではマイルドな影響に留まっています。

 

この2年はCAT債市場にとって一つの大きな試練となりましたが、市場は混乱なく災害損失を消化することができており、加えて甚大な損失を被った後の再保険料率の変動も驚くほど落ち着いています。CAT債・保険リンク証券市場が意図された役割をしっかりと果たし、機能していることが実証された2年だったということができると思います。

 

幾田 実際に発生した災害が債券の価値に反映されるまでに、どれくらいのタイムラグが発生するのでしょうか?

 

新原 ハリケーンの風速や中心気圧、地震マグニチュードなどパラメーターを基にしたトリガーであればほとんどラグは発生しませんが、実際の保険損失額を基にしたトリガーの場合には、棄損額の確定という意味では数か月から数年かかることもあります。

 

ただしCAT債についてはセカンダリ市場で価格が見えており、その時点での情報はリアルタイムで織り込まれていることになります。2017年の災害損失についても事後的に随時アップデートされており、その度に2018-19年の相場に一定の影響が見られました。しかしながら、大災害損失の場合でも発生後約1年を過ぎると修正幅もかなり落ち着いてくるのが通常です。

CAT債市場は大災害が発生するたびに成長

幾田 先ほど170銘柄ほどが流通しているとおっしゃいましたが、発行市場の状況はいかがでしょうか。

 

新原 CAT債のマーケットは順調に拡大しており、2018年には約100億ドルの新規発行、年末の市場残高は約290億ドルとなりました。歴史的には大きな災害損失が発生する毎に、ひっ迫しがちな再保険市場の受け皿となる形でCAT債市場の成長が加速しています。2017-18年の災害年を経た後も、再度CAT債市場の拡大が見られており、このような傾向が続くことが見込まれます。

 

また、他資産との低相関にフォーカスして投資を実施している投資家のスタンスは、足元の自然災害動向や短期的なCAT債のスプレッド動向などに大きく左右されない傾向があります。

 

新しい発行体や新地域・ペリル(災害種類)へのカバレッジ拡大の動きも毎年のように見られています。2018年は、中南米各国の地震リスクやカリフォルニアの山火事リスク、北米の高潮・洪水リスクなどにおいて、新しい形での発行が見られました。主要な災害リスクが、ハリケーンや地震であることが変わることはありませんが、今後も市場の拡大とニーズに応じて、様々なリスクが切り出されてくることが予想されます。

 

Eastpoint Asset Management Ltd. Co-CEO/CIO

2012年英領バミューダにてEastpoint Asset Management Ltd.を設立後、投資責任者として保険リンク証券戦略の運用を担う。2006年以降継続的にCAT債運用に従事しており、ポートフォリオマネージャーとして堅調なトラックレコードを有する。以前はAIFAM Inc.、UFJ(旧・東海)銀行に在籍、豊富な市場運用分野での経験を持つ。1971年生、東京大学工学部卒。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、CFA協会認定証券アナリスト。
WEBサイト:https://eastpointam.com/

著者紹介

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) ダイレクター

2006年より三菱UFJモルガン・スタンレー証券(入社当時は三菱UFJ証券)にてリテール営業、株式、仕組債、商品戦略等の幅広い業務に従事。2011年から2012年にはニューヨークのモルガン・スタンレー・ウェルスマネジメント(当時はモルガン・スタンレー・スミス・バーニー)でマネージド・アカウントをはじめとする米国の富裕層ビジネスの現場で経験を積む。2014年、現職であるNippon Wealth Limitedの商品およびビジネスデベロップメントの責任者として就任。国際基督教大学卒。
WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

著者紹介

連載バミューダの日系運用会社CEOに聞く「CAT債」の仕組みと魅力

本稿は、情報提供を目的として、インタビュー時点での経済データ等をもとに個人的な見解を述べたもので、Eastpoint Asset Management Ltd.およびNWBとしての公式見解ではありません。また、特定の金融商品への投資の勧誘を目的とするものではありません。

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