日本の地震も対象…災害リスクを証券化した「CAT債」とは?

今後、市場の拡大が予想される保険リンク証券。その中でも「CAT債(キャットボンド)」と呼ばれる債券が、投資家たちの注目を集めています。CAT債発行の中心地といえる英領バミューダに、日系唯一となる保険リンク証券運用会社のEastpoint Asset Management Ltd.を2012年に設立、共同CEO兼CIOの新原輝久氏。本インタビューでは、CAT債の基本的な仕組みや、投資対象としての魅力などについてお話を伺いました。聞き手は、香港の新しい金融機関であるニッポン・ウェルス・リミテッド(NWB/日本ウェルス)のダイレクター、幾田朋彦氏です。※本稿は2017年に掲載されたインタビュー記事をもとに、より最近の事情を反映すべく再編集されたものです。

「大災害」に起因するリスクの証券化で再保険市場を代替

幾田 まずはCAT(キャット)債とはそもそも何なのか、歴史的な成り立ちを含めてお伺いしたいと思います。

 

新原 CAT債のCATとは、Catastrophe(カタストロフィー=大災害)の略で、保険リンク証券(ILS)の代表的な形態といえます。1994年にドイツのハノーバー再保険が、自社で引き受けている保険のリスクを証券化することで投資家に移転するために初めてCAT債を発行しました。

 

CAT債の仕組みは、保険会社、再保険会社が引き受けている保険リスクを証券の形で取り込むことにより、そのリスクを反映した保険料としての金利が投資家に支払われるというもので、実質的には再保険、再々保険の代替として機能します。再保険やその他保険リンク証券と最も異なる点は、CAT債がセカンダリで取引される、つまり高い流動性と価格透明性を持っていることです。

 

大手再保険ブローカーのAonによれば、再保険市場の資本合計は約6,000億ドル(2018年9月時点)とされています。資本市場全体に比べると小さな規模なのですが、保険会社や再保険会社の抱えるリスクは経済成長に伴って年々増大しており、再保険市場のみではカバーしにくくなりつつあります。

 

特にこれまで、1992年のハリケーン・アンドリュー、2001年のNYテロ、2005年のハリケーン・カトリーナといった大型の災害損失は、再保険市場のひっ迫、その後の再保険料率高騰を引き起こしました。

 

CAT債は、そのような波のある再保険市場を代替・補完する役割を担っていると言えます。主な発行体は保険・再保険会社ですが、最近では一般事業会社(公益企業など)や政府、世界保健機構(WHO)などの外郭団体にも一定の広がりを見せています。発行体はスポンサーと呼ばれることもあります。

他の資産クラスとの相関性の低さがCAT債投資の魅力

幾田 スポンサーが自分達のリスクをコントロールするためにより大きなマーケットへのアクセスが必要となったということですね。一方で、リスクの受け手である投資家サイドは、リスク特性の異なる商品に投資したいというニーズがあり、Eastpoint社の様な保険リスクに精通した専門家のサポートを必要としているということですか。

 

新原 CAT債の歴史は20年以上ありますが、広がりを見せてきたのはまだここ10数年のことです。多くの機関投資家も、CATリスク分析にノウハウを持つ保険リンク証券の専門家を通してこの市場にアクセスするのが一般的です。CAT債投資の動機として最も大きいのは、他の金融資産とリターンの相関性が低いことですが、特にリーマンショックを経てからこの保険リンク証券市場に注目が集まりました。

 

幾田 なぜ他の資産クラスとの相関が低いのかということについてご説明いただけますか?

 

新原 CAT債ではハリケーンや地震、竜巻などの自然災害やパンデミックなどが生来的に保有するリスクであり、一般的な景気変動とはほぼ関係のないところで価値の変動が生じるので、結果として株式や国債・社債などの金融資産とは相関性の低い動きをする傾向があります。

米国のハリケーンや日本の地震…対象の災害は多種多様

幾田 他の資産との相関が少ないと、ポートフォリオに組み入れた際の分散効果が増しますから、一部投資家に重宝されるのは想像に難くありません。一方で、自然災害が損失のトリガーとなるのであれば、投資する側としては気象や自然災害に対する知識が必要なのでしょうか?

 

新原 勿論その様な知識・情報も必要とされますが、災害の予測自体が適時適確にできるとは限らないので、どちらかと言えば、保険リスクに対する確率的な理解の方が重要と考えています。

 

ひと昔前の保険の世界と違い、今は保険リスクの計量化がより容易となっています。気象(ハザード)データと保険データに基づいたCATリスクモデルのシミュレーションによって、個々のCAT債について何%の確率で棄損するか、といった数値が算定されます。そしてこのリスク数値に対してプレミアムがいくら払われるかといった見方が、発行体と投資家ともに共通の物差しで測れるようになってきました。

 

さはさりながら、ポートフォリオ構築の際には、これらのリスク指標が全てのリスクを表すものではないことにも注意が必要です。特に大規模自然災害発生時には様々な予期せぬ事象が起こることが普通で、そのような不確実性を出来るだけ抑えるためにも、投資対象の地域やペリル(災害の種類)を細かく分散する事が必須になります。それにより、大災害時に起こりうる「想定外」の影響を低減させることが可能だからです。

 

現在、マーケットで流通する主要なCAT債は約170銘柄です。その中には北米のハリケーン・地震・竜巻・山火事、ヨーロッパの暴風雨・洪水、日本の地震・台風、中南米の地震など、様々な災害が含まれています。中でも北米ハリケーンが市場の大きなリスク量を占めますが、個別のCAT債の特徴は様々ですので、注意深く選択することにより、十分に分散されたポートフォリオを組むことが可能です。例えば、リスクの集中するフロリダのハリケーンによる影響をできるだけ抑えるようにポートフォリオを構築するのが、より安定的なリターンを獲得する上での一つのアイディアになります。

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Eastpoint Asset Management Ltd. Co-CEO/CIO

2012年英領バミューダにてEastpoint Asset Management Ltd.を設立後、投資責任者として保険リンク証券戦略の運用を担う。2006年以降継続的にCAT債運用に従事しており、ポートフォリオマネージャーとして堅調なトラックレコードを有する。以前はAIFAM Inc.、UFJ(旧・東海)銀行に在籍、豊富な市場運用分野での経験を持つ。1971年生、東京大学工学部卒。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)、CFA協会認定証券アナリスト。
WEBサイト:https://eastpointam.com/

著者紹介

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) ダイレクター

2006年より三菱UFJモルガン・スタンレー証券(入社当時は三菱UFJ証券)にてリテール営業、株式、仕組債、商品戦略等の幅広い業務に従事。2011年から2012年にはニューヨークのモルガン・スタンレー・ウェルスマネジメント(当時はモルガン・スタンレー・スミス・バーニー)でマネージド・アカウントをはじめとする米国の富裕層ビジネスの現場で経験を積む。2014年、現職であるNippon Wealth Limitedの商品およびビジネスデベロップメントの責任者として就任。国際基督教大学卒。
WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

著者紹介

連載バミューダの日系運用会社CEOに聞く「CAT債」の仕組みと魅力

本稿は、情報提供を目的として、インタビュー時点での経済データ等をもとに個人的な見解を述べたもので、Eastpoint Asset Management Ltd.およびNWBとしての公式見解ではありません。また、特定の金融商品への投資の勧誘を目的とするものではありません。

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