災害リスクを証券化した「CAT債」の基本的な特徴

今後、市場の拡大が予想される保険リンク証券。その中でも「CAT債(キャットボンド)」と呼ばれる債券が、投資家たちの注目を集めています。CAT債発行の中心地といえる英領バミューダに、日系唯一となる保険リンク証券運用会社のEastpoint Asset Management Ltd.を2012年に設立し、CEOに就任した北出公英氏。本インタビューでは、CAT債の基本的な仕組みや、投資対象としての魅力などについてお話を伺いました。聞き手は、香港の新しい金融機関であるニッポン・ウェルス・リミテッド(NWB/日本ウェルス)のシニア・マネージャー幾田朋彦氏です。

「災害(Catastrophe)」に起因するリスクを証券化

幾田 まずはCAT(キャット)債とはそもそも何なのか、歴史的な成り立ちを含めてお伺いしたいと思います。

 

北出 CAT債のCATとは、英語でCatastrophe(カタストロフィー=災害)の略です。時を遡ること1994年、ドイツの再保険会社、ハノーバー社が、自社で引き受けている保険のリスクを債券に仕立てることで投資家に転嫁し、自らが背負うリスクをオフセットするために初めてCAT債を発行しました。

 

CAT債の本質というのは、保険会社、再保険会社の本業である保険リスクを債券に一部取り込むことで、そのリスクプレミアムの乗った金利を投資家にお支払いするというものです。

 

保険・再保険マーケットのキャパシティと言うのは、金融マーケット全体の1%程度に過ぎないのですが、保険会社や再保険会社の抱えるリスク自体は増えており、そのリスクをヘッジしたいというニーズがまかなえていない現状が背景にあります。

 

CAT債は、それら発行体のニーズを補完する役割を担っていると言えます。中には事業会社でCAT債を発行しているケースもありますが、主な供給者は保険・再保険会社です。彼らのことをスポンサーと呼びます。

 

他の資産クラスとの相関性の低さがCAT債投資の魅力

幾田 スポンサーが自分達のリスクをヘッジ、あるいはオフセットするためにそういったマーケットへのアクセスが必要だったということですね。一方で、リスクの受け手である投資家サイドは、リスク特性の異なる商品に投資したいというニーズがあり、北出さんの様な方々の助けを必要とされているということですか。

 

北出 CAT債投資の動機として最もポピュラーなのは他の資産との低相関性、ここに尽きるかなと思います。ですからそういった視点で投資をしている投資家の方々は多少、スプレッド(利回り格差)が縮んでも、投資意欲はあまり落ちません。

 

幾田 なぜ他の資産クラスとの相関が低いのかという事についてご説明頂けますか?

 

北出 CAT債はハリケーンや地震、竜巻であるとか、それら自然災害によってあらかじめ決められた損失の基準を超えると元本毀損をし、そうでなければ特に何も起きない(予定通りの金利と元本の支払いがある)という商品です。裏を返せば、金融市場の動きとはほぼ関係のないところで価格変動が起きるので、一般的な有価証券とは異なる動きをします。

米国のハリケーンや日本の地震…対象の災害は多種多様

幾田 他の資産との相関が少ないと、ポートフォリオに組み入れた際の分散効果が増しますから、一部投資家に重宝されるのは想像に難くありません。一方で、自然災害が損失のトリガーとなるのであれば、投資する側としては気象や自然災害に対する知識が必要なのでしょうか?

 

北出 保有債券の損失に関わる部分ですから、もちろんその様な情報は収集していますが、どちらかと言えば、保険リスクへの理解が最も大切です。

 

ひと昔前の保険と違い、今は保険リスクの計量化が容易な時代になりました。それが可能になった事によって、期待損失率が何%の保険リスクに対して、プレミアム(CAT債の場合は金利)がいくら払われるか、といった見方が、リスクの出し手(保険会社等のスポンサー)とリスクの引き受け手(CAT債の投資家)ともに共通の物差しで測れるようになりました。

 

それらを参考にし、グローバルに災害関連の情報を収集しながら、ポートフォリオを構築していきます。ここで大事になるのがリスク分散の概念です。

 

計量分析によって算出された期待損失率の数字を信じ切るのも危険ですので、それを参考にしながら、保有するCAT債に関連する損害イベントが起こっても、できるだけそのインパクトを小さくするために、地域やペリル(危険に関する抽象的な概念で、火災、爆発、交通事故など損失を生む事故、または危険をもたらすあらゆる原因の事)を細かく分散する事を心がけています。

 

そうすることによって、大きな災害が起こっても、ファンドへの影響を最小限に抑えることが可能だからです

 

現在、マーケットでは残存中のCAT債が160銘柄ほど出回っています。その中にはアメリカのハリケーン・地震、ヨーロッパの暴風雨、日本の地震・台風、オーストラリアのサイクロンと、災害の種類は豊富です。

 

それぞれの災害に連動したCAT債の期待損失率と金利は様々ですが、例えば、できるだけ保有銘柄をアメリカのハリケーンに集中しない様にポートフォリオを組んでいくのが、分散の肝だと思います。

 

本稿は、情報提供を目的として、インタビュー時点での経済データ等をもとに個人的な見解を述べたもので、Eastpoint Asset Management Ltd.およびNWBとしての公式見解ではありません。また、特定の金融商品への投資の勧誘を目的とするものではありません。

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連載バミューダの日系運用会社CEOに聞く「CAT債」の仕組みと魅力

Eastpoint Asset Management Ltd.  CEO

1967年生、上智大学経済学部卒業。日本及びシンガポール公認保険ブローカー資格保持。2012年に保険リンク証券運用では希少な日本人プロフェッショナル達とともに、英領バミューダにてEastpoint Asset Management Ltd.を設立、CEOに就任。以降バミューダでは、唯一の日系運用会社として保険リンク証券の運用に従事している。著書として、「勝者の保険リスクマネジメント入門」(東洋経済新報社)などがある。

著者紹介

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) シニア・マネージャー

2006年より三菱UFJモルガン・スタンレー証券(入社当時は三菱UFJ証券)にてリテール営業、株式、仕組債、商品戦略等の幅広い業務に従事。2011年から2012年にはニューヨークのモルガン・スタンレー・ウェルスマネジメント(当時はモルガン・スタンレー・スミス・バーニー)でマネージド・アカウントをはじめとする米国の富裕層ビジネスの現場で経験を積む。2014年、現職であるNippon Wealth Limitedの商品およびビジネスデベロップメントの責任者として就任。国際基督教大学卒。
WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

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