国民思いの王様「貧乏な人がかわいそう。市場のイモを安くせよ」…余計な気遣いで〈国の経済大混乱〉のワケ

国民思いの王様「貧乏な人がかわいそう。市場のイモを安くせよ」…余計な気遣いで〈国の経済大混乱〉のワケ
(※写真はイメージです/PIXTA)

「神の見えざる手」とは経済学の祖、アダム・スミスの言葉です。その趣旨は「神様の手は見えないが、経済のことは神様にお任せしておけばいいようにしてくださる。だから、王様は経済に手出し口出ししないで」といったものですが、では、もし王様が手出し・口出しをすると、国の経済にはどんな困ったことが起きるのでしょう? 経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

商品の価格は「需要と供給が一致するところ」に落ち着く

ある村にイモの市場があったとしましょう。イモの取引は、買う人も売る人も「1人1個だけ」だとします。

 

イモが300円なら買いたい人が3人、200円なら4人、100円なら5人いるとします。とても空腹な人が3人、少し空腹な人が4人、あまり空腹ではない人が5人、というわけですね。

 

市場の近くの3人の農家は、100円でもイモを売りたいと考えています。少し離れている農家の4人は「100円だったら市場まで行くのが面倒だが、200円なら売りたい」と考えています。市場から遠い農家の5人は、300円なら売りたいと考えています。結局、100円なら3人、200円なら4人、300円なら5人が売りたいと考えているわけですね。

 

この市場でイモの値段が300円だったら、何が起きるでしょうか。売りたい人は5人、買いたい人は3人ですから、3組のペアができて、仲間はずれが2人出ます。仲間はずれになった人は、そのまま帰宅するのではなく、「299円で売るので、他の人から買わないで私から買って下さい」と言うでしょう。

 

せっかく買い手を見つけた人は客を取られたくないので、「私は298円で売りますから、私から買ってください」と言うでしょう。こうして少しずつ値段が下がっていき、200円になった所で止まります。

 

値段が200円ならば、売りたい人と買いたい人が4人ずつなので、4組のペアができて、仲間はずれがいないからです。つまり、神様に任せておくと、イモの値段は200円になるというわけですね。

 

では、この市場でイモの値段が100円だったら、何が起きるでしょうか。まったく同じように考えれば、やはりイモの値段は200円にまで値上がりしていき、4組のペアができることがわかるでしょう。

 

そうなのです。大切なのは「ある値段で買いたい人と売りたい人が同じ人数だと仲間はずれがいないので、その値段がその日の市場でのイモの値段になる」ということなのです。

 

これを経済学用語で「価格は需要と供給が一致する所に決まる」と言います。需要というのは「買い注文の数」、供給というのは「売り注文の数」、価格というのは「値段」のことですね。

 

300円なら売りたい人と、100円なら買いたい人は、取引相手が見つかりませんが、それは仕方ありませんね。

「貧乏な人も手が届く価格にせよ」→王様の配慮で困った事態に

さて、心の優しい王様が村にやって来て「貧乏な人でもイモが食べられるように、イモの値段を100円にしなさい」と命令しました。すると、困ったことが2つ起こりました。

 

ひとつは、少し遠くに住んでいる農家が「100円なら市場まで行くのが面倒だから、イモは豚のエサにしよう」と考えるようになったことです。人間が食べるイモが減って、その分を豚が食べてしまった、というわけですね。

 

そして、市場には3人の売り手と5人の買い手がいるので、ペアが3組できて、仲間はずれが2人できます。仲間はずれになったのは運の悪い人なので、とても空腹な人でも運が悪いとイモが食べられません。王様が来る前は、空腹の人も全員イモにありついていたのに…。これが2つ目の問題です。

 

似たようなことは、さまざまな場合に言えそうです。「労働者が貧しいのは可哀想だから、最低賃金を引き上げる」と王様がいうと、「そんな高い賃金を払うくらいなら、労働者を雇わない」という企業が増えて、失業する労働者が増えてしまうかもしれません。

 

女性に優しい王様が「女性の深夜労働を禁止する」と言えば、企業は「それなら男性を雇おう」と考えるので、女性の失業が増えてしまう、という可能性もあるわけですね。

「神様」にお任せすると、需要増が供給増につながるワケ

神様に任せておくと、上記のような困ったことが起きないばかりではなく、まだ良いことがあります。あるとき有名人が「私はイモでダイエットに成功した」と発言し、イモの人気が高まりました。300円でも買いたいという人が5人に増えたので、イモの値段が300円に値上がりしました。

 

イモを買いたいという人が増えたので、遠くの農家もイモを豚のエサにせずに市場まで売りに来るようになり、イモを食べられる人が増えた、というわけですね。人気のある物は多く売られるので大勢の人が食べられる、というのは素晴らしいことですね。

 

イモの人気が更に高まると、イモの値段が更に値上がりし、コメを作っている農家が「イモを作ったほうが儲かりそうだから、来年はコメを作らずにイモを作ろう」と考えるかもしれません。これも「食べたい人が多いほど作る人が増える」という事ですから、素晴らしいことですね。

 

上記の難しい言葉を使えば、需要が増えると価格が上がり、それによって供給が増えるので、増えた需要が増えた供給によって満たされ、多くの人が満足する、というわけですね。

 

今回は以上です。なお、本稿はわかりやすさを最優先として書いていますので、細かい所について厳密にいえば不正確だ、という場合もあり得ます。ご理解いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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