「株主優待狙い」の個人投資家も多いが…
「株主優待」という制度があります。株主に対して、自社製品の詰め合わせを贈ったり、自社サービスの利用券を贈ったりするものが多いですが、金券的なものを贈る場合もあります。
配当に加えて株主優待が受け取れるのは嬉しいですし、結構豪華な優待を贈ってくれる企業も多いことから、株主優待を狙った投資をする人も多いようです。3月末や9月末が近づくと、マネー雑誌が株主優待特集を組んだりしています。筆者も、お気に入りのレストランチェーンの株を持っています。
自分が気に入っている店で年に何度か食事が出来るのは嬉しいですし、「自分が気に入っているのだから、きっと他の客も気に入って、店が儲かって株価が上がるに違いない」と勝手に信じているわけですね(笑)。
株主優待、実は企業にとっても「メリットあり」
企業が結構豪華な株主優待を贈るのは、企業にとってもメリットがあるからなのです。
ひとつは、個人株主の増加です。株主優待狙いの個人投資家は、長期保有が前提なので、安定株主として企業にとってありがたい存在なわけです。こうした目的であれば、消費者相手でない企業も金券などを配ったりするわけです。
もうひとつのメリットは、販促です。自社製品の詰め合わせを贈ることで、自社製品に親しみを持ってもらい、次は購入してもらおう、というわけですね。新商品のサンプルを街頭で配布しているのを見かけますが、あれと比べると遥かにコストパフォーマンスがよさそうでしょう。
飲食店等の優待券も、同じことですね。無料券で食べにきてもらい、次回からは普通に来店してもらう、ということでもいいのですが、半額割引や2割引という事であれば、それ自体が集客のツールになっているわけです。さらには、知人友人を連れてきてもらい、新しい常連客の候補を開拓する、という効果もありますね。
株主の幹事としては、優待が使える店を利用することで「俺のおかげで宴会予算が浮いたぜ」と自慢できた上に利用額に応じたポイントを貯めることができますし、店としては常連客候補が一気に増えるわけですから、ウィン・ウィンですね。
忘れてはならないのが、企業にとってのコストが現金配当よりはるかに少ない、ということです。製品であれば、工場の稼働率が下がっているときに作ったものを優待品とすることで、コストを材料費だけに抑えることが可能です。飲食店なども満席時以外であれば追加的なコストは材料費だけですね。
筆者が時々利用するJALの株主優待は、半額で搭乗できるわけですが、これなどはANAから客を奪って来るうえに、追加的なコストはほぼゼロです。満席の便でなければ、空気を運ぶことになるわけですから。
優待狙いが過ぎると本末転倒に!
優待狙いの投資を否定するわけではありませんが、優待狙いが行き過ぎて、本末転倒している例も散見されますので、要注意です。
ひとつには、優待品の価格と株価を比較して「優待利回り」を計算・追求するあまり、好きでもない食品の詰め合わせが大量に贈られて来るような場合です。いくら高価でも、好きでもない優待品を我慢して食べるくらいなら、高価でなくても好きな食品をおいしく食べるほうが、人生も豊かになるのではないでしょうか。
優待品は、転売して儲けるためにゲットするわけではなく、自分で楽しむことが基本ですから、「自分の好きな製品を作っている会社の株を買って、毎回の優待品をしっかり楽しむ」というスタンスが大切ですね。
それから、「株式投資の基本は、配当と値上がり益を狙うことである」という基本を忘れている人が多いようにも思えます。配当利回りの高い銘柄ばかり選んで購入しているけれども、少しも値上がりせずに配当も少ない、というのはいかがかと思いますよ。
機関投資家の不満による「突然中止のリスク」に要注意
株主優待狙いの投資に関するリスクとして、突然株主優待が中止になることがあげられます。株主優待が中止になると、楽しみにしていた優待品が得られないのみならず、おなじように優待狙いで買っていた株主たちが失望して株を売るので、株価が暴落しかねないのです。これでは泣きっ面に蜂ですね。
配当が減っても同じことが起きますが、配当が減るのは企業業績が悪化したときですから、厳しくいえば、それを予想できなかった投資家が悪い、ということなのです。しかし、株主優待は企業業績がよくても突然中止になる可能性があるので、これは天災のようなものですね。
中止になる主な理由は、機関投資家の怒りのようです。レストランで半額の食事券が配られたとしても、機関投資家は食事に行くわけに行きませんから(笑)。
投資信託であれば、100人が資金を出し合って100銘柄を1株ずつ買う、といったことが行われているわけです。その場合、100人が株主優待による割引価格で食事ができるわけではありません。かといって、実際に株を買っているプロ(ファンドマネージャーと呼びます)が食べるわけにも行きません。彼らは、単に投資の手伝いをしているわけで、自分自身は株主ではありませんから。
そこで彼らは「株主優待をやめて、配当を増やせ。配当なら機関投資家も個人投資家も平等だから」と主張するわけですね。企業経営者がそれを聞き入れる優待が中止になる、というわけです。
本稿は以上ですが、投資は自己責任でお願いします。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。
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塚崎 公義
経済評論家
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