(※写真はイメージです/PIXTA)

日本には多くの企業がありますが、実は多くの人が想像するよりも、倒産する企業はずっと少ないといえます。企業経営はたしかに大変ですが、一般の人がしり込みするところを一歩踏み出せば、得られるメリットは大きいのです。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

「多くの企業は儲かっている」と判断できる理由

世の中には多数の企業がありますが、倒産する企業は、実はそこまで多くありません。もし企業の半分が黒字、半分が赤字だとしたら、今よりはるかに多くの企業が倒産してしまうでしょう。

 

つまり、逆に考えれば「多くの会社は儲かっている」ということになります。

 

では、どうして多くの会社は儲かっているのでしょうか?

 

それは、普通の人々がリスクを嫌って「多分儲かるけれど、もしかしたら損するかもしれない」という投資をしないので、勇気を持って投資をした人の多くが儲けている、ということなのです。

 

極端な例ですが、道端に食べ物が落ちていたとして、普通の人は「多分大丈夫だが、お腹を壊すと嫌だから食べない」と考えるでしょう。そんなときに勇気のある人が食べれば、多くの場合には得をするわけですね。稀に腹痛を起こすかもしれませんが(笑)。

 

企業活動に欠かせない設備投資について考えてみましょう。

 

株主と銀行から金を集めて工場を建て、労働者を雇い、材料を仕入れ、製品を作って売るわけです。製品の売値と材料の仕入れ値の差は「付加価値」と呼ばれます。

 

つまり、設備投資は価値を生み出すわけです。それが労働者への給料、銀行への金利、株主への配当(および内部留保)という形で分配されるわけです。

 

設備投資にはリスクがあります。工場を建てたら大地震が来て、工場が壊れてしまうかもしれません。ライバルがよい製品を発売して、自社の製品がまったく売れなくなってしまうかもしれません。

 

そうしたリスクはありますが、工場を建てることは、期待値としてプラスの価値を生むのです。「期待値」というのは、儲かる金額と儲かる確率を掛け合わせたものです。

 

100円儲かる確率が9割、500円損する確率が1割だとすると、100の0.9倍の90が儲かる期待値、500の0.1倍の50が損する期待値なので、この投資の期待値は90−50=40だ、といった計算をするわけです。

 

期待値がプラスなのは、普通の企業経営者がリスクを嫌うからです。普通の企業経営者は、期待値がプラスの設備投資しか実施しないのです。100円儲かるか100円損するか、五分五分だったら投資をしない、というわけですね。

 

したがって、期待値がプラスの設備投資機会が世の中には数多く残されており、勇気のある経営者がその案件を実行すれば、多くの場合には儲かる、というわけですね。

企業の破産によって生じる、さまざまなデメリット

では、どうして企業経営者はリスクを嫌うのでしょうか?

 

最大の理由は、破産したくないからです。個人企業であれば、事業に失敗すると破産者になって、住む場所も失い、悲惨な生活を強いられるでしょう。

 

個人の破産が嫌だ、という点については経営者に限りません。カジノで小遣いを賭けて遊ぶ人は多いですが、全財産を賭ける人があまりいないのは、皆がそう思っているからですね。全財産が2倍になる嬉しさより、破産する悲惨さの方が大きい、ということですね。

 

企業の破産(倒産)も、やはり嫌なものです。企業が倒産すると、経営者も労働者も仕事を失ってしまいますから。日本企業は、とくに労働者の雇用を守るということを重視しているので、倒産はとても嫌なものなのです。

 

そしてまた、企業の倒産は株主にとっても嫌なものです。せっかくの設備機械がスクラップ業者に二束三文で買いたたかれたりしますし、企業が持っているノウハウや信用といったものも雲散霧消してしまいます。

 

企業が倒産しなければ、設備機械やノウハウ等々を活用して将来的に大きな利益を稼げたかもしれないのに、その可能性を失ってしまうわけですから。

 

ちなみに、ノウハウや信用といったものは、「無形資産」と呼ばれ、バランスシートには載っていませんが、企業の大切な財産です。それを理解するためのキーワードの一つが創業赤字です。

 

企業は、創業直後は赤字になるのが普通です。ノウハウや信用を得るまでは、利益を稼げないからです。それがわかっているのに操業する会社があるのは、ひとたび無形資産を獲得してしまえば、それが将来にわたって利益の源泉となることがわかっているからです。

 

言い方を変えると「会社が倒産すると、操業赤字を出してまで獲得した無形資産が雲散霧消してしまうので、もったいない」ということなのですね。

株価のPBRが1より高いのは「無形資産」があるから

無形資産の重要性を理解するためのもうひとつは、株価は一株あたり純資産よりも高いのが普通だ、ということです。株式投資に関する用語で言えば「PBR(株価を一株あたりの利益で割った値)は1より大きいのが普通だ」ということですね。余談ですが、日本ではPBRが1より小さい企業も多く、不思議な気がしています。

 

一株あたり純資産というのは、バランスシートの右下の純資産額を、発行済み株式数で割った値ですから、理論的には会社が解散するときに株主に分配される金額を意味しています。資産がバランスシートの値段通りで売れれば…という話ではありますが。

 

株価がこれを上回るのが普通だ、ということは、将来にわたって無形資産が利益を生み続けるということを前提に、投資家たちが株の売買をしているからなのですね。

 

それは明確にわかるのは、企業買収のときです。企業買収の価格は、企業のバランスシートの純資産より高いのが普通ですが、その差額は無形資産の価値だと言われているのです。

 

純資産100の企業が101の利益を稼いで配当しても、株主の利益は101しかありませんが、企業が101の損を計上すると債務超過に陥って倒産するのが普通ですから、純資産額を上回っていた株価がゼロになってしまうわけです。これはもったいないですね。

 

企業の倒産は、銀行にとっても嫌なものであることは当然です。したがって、企業経営者がリスクの高い設備投資などを行おうとしているときには、銀行は「この会社は倒産するかもしれないから、金を貸すのはやめよう。貸すとしても、高い金利を払ってもらおう」と考えるわけです。

 

これも経営者にとっては困ることですから、経営者がリスクのある設備投資を嫌う理由のひとつとなるわけですね。

 

今回は以上です。なお、本稿はわかりやすさを最優先として書いていますので、細かい所について厳密にいえば不正確だ、という場合もあり得ます。ご理解いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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