拍車がかかる中国の「情報統制」
最近、中国関連でよく聞かれる質問は「コロナ感染再拡大」「台湾有事」「反スパイ法」が“御三家”。さらに最近、「情報統制」も加わりつつある。政治のみならず経済情報の取得ハードルが高まってきたのだ。
エコノミストも発言内容に気を使わなければならないご時世。ルールを守れば大きな問題はなさそうだが、何だか窮屈な社会になってきた気もする。
「中国政府、経済情報へのアクセス制限強める」――。
この見出しで始まる、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の5月1日付記事によると、中国は経済に関する情報を「ブラックボックス化」しており、海外企業や投資家がこれを警戒している。
その一例として挙げられたのが情報ベンダー「万得信息技術(ウインド)」。ブルームバーグやファクトセットなどの“中国版”のような位置付けで、中国の各種統計や情報を一括取得できる業界最大手だ。
このウインドへのアクセスが一部断たれ、海外顧客の購読契約が更新できなくなっているという。
中国本土以外の都市にいる契約者は、電子商取引(EC)のトレンドデータや都市の照明を示す衛星画像、土地競売の記録などの閲覧ができなくなったそうだ。私の知人も、「中国拠点の契約端末では見られるデータが、日本本社契約では閲覧不可」という状況に陥った。
背景には「改正反スパイ法」(2023年7月1日施行)により国境を跨ぐデータ転送に対する政府の監視権限が強化されることもあるよう。機微な情報は仕方ないが、制限範囲がむやみに広がれば、景気動向などの分析に支障が出る可能性もある。
情報の発信側も大変なようだ。ブルームバーグの5月12日付報道によると、「当局は証券会社45社を詳しく調査。その後、市場に大きな影響を与える可能性のあるリークや偽情報の拡散をアナリストは防止しなければならないと業界に通達した」という。
風説の流布やインサイダー情報の無秩序な発信は当然アウトだが、今回の通達では、証券会社が専門家との会話や調査で得た情報の合法性と正確性を確認し、アナリストの発言を「管理」する必要があると説いたとされる。要は情報ソースの明確化とエビデンス取得の徹底化だろうか。
ただ、中国人アナリストの自主規制や忖度傾向が強まれば、当局や企業、専門家などの公式発表を代弁するだけの「スポークスマン状態」になってしまう懸念もある。
思い込みが強く突拍子もないストーリー展開は御法度だが、独創性のかけらもない安全運転のレポートは、金太郎飴のようにどこを切っても(読んでも)同じ内容になるだろう。
「政府はデフレを認めていないが、私個人的には……」などの感想レベルも微妙だ。