4―小ドーナツ:コロナ禍における駅近選好の変化
最後に、東京都の住宅街(駅)における駅近・駅遠エリア間の人口移動について考察する。一般的には、コロナ禍は駅遠エリアを選好する傾向を強めるものと推測された。
その理由としては、在宅勤務の普及に伴い、通勤利便性を重視して駅近の物件に高い家賃を払う意義が低下し、住環境の改善に向けて広い間取りのニーズが高まったことなどが挙げられる。
そこで、東京都内の653駅を対象とし、半径0.8km内(徒歩10分圏内)を駅近エリア、0.8km~1.6km内(徒歩10分~20分圏内)を駅遠エリアとして、各エリアの居住者数の変化を分析した。
具体的には、携帯位置情報データであるKDDI「KDDI Location Analyzer」を使用して、各駅を居住者数の5分位階級に分け、2019年から2022年にかけての平均居住者数変化率を、駅近エリアと駅遠エリアで比較した[図表4]。
その結果、居住者の多い駅については、駅近エリアと駅遠エリア間で居住者数の増加率に大きな違いはなく、一方で居住者の少ない駅では、駅近エリアの増加率が駅遠エリアよりも高かった。
したがって、駅近エリアから駅遠エリアへ人口シフトは特段見られず、コロナ禍においても駅遠エリアの選好が強まっているわけではないと考えられる。
また、年齢別に見ると、50代を除き、駅近エリアの居住者数の増加率が駅遠エリアより高く、特に20代から30代の若年層ではこの傾向が顕著である[図5]。
これは、若い世代が駅近エリアの利便性や繁華性を重視していると解釈できるだろう。
このように3つのドーナツの視点からコロナ禍における国内の人口移動の変化やその特徴を分析すると、コロナ禍によって変化した側面と、変わらなかった部分が見えてくる。
コロナ禍の3年間で、人々は都市のリスクを意識した一方、多くの人が集まる都市の魅力に再び目を向けたのではないだろうか。
コロナ禍で広まった新たな生活様式がどの程度根付くかは未だ不透明であるが、コロナ禍が人口移動に対する構造的な変化をもたらしている可能性もあるため、今後もデータを丹念に確認していくことが重要だと考えられる。
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