(写真はイメージです/PIXTA)

コロナ禍で広まった新たな生活様式がどの程度根付くかは不透明ですが、コロナ禍が、人口移動に対して変化をもたらしている可能性もあります。本稿では、ニッセイ基礎研究所の佐久間誠氏が、大・中・小、3つのドーナツからコロナ禍による人口移動の様子を分析します。

1―人口移動のドーナツ構造とは?

ドーナツ化現象という言葉を耳にしたことのある読者は多いだろう。ドーナツ化現象とはいわゆる郊外化を示し、一方で逆ドーナツ化現象は都心回帰を指す。

 

都市は、中心部と周辺部を形成する傾向にあり、この間の人口移動はドーナツに見立てられて解説されることが一般的である。この中心・周辺構造による分析は、都市圏に限定されない。

 

様々な規模の地域に対して適用可能であり、それぞれの規模に応じたドーナツを描き出すことができる。本稿では、大中小の3つのドーナツをもとに、コロナ禍による国内の人口移動の変化とその特性を読み解いていく[図表1]。

 

 

この3つのドーナツの中で、大ドーナツは日本全体の視点から人口移動を捉えるもので、東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)と地方との間の人口移動を表している。コロナ禍前は東京一極集中が顕著で、地方から東京圏へと人口が流入していた。

 

次に、中ドーナツは、東京圏内の東京23区とその周辺部(東京都下と3県)の間での人口移動を示すもので、コロナ禍前は東京23区への都心回帰が進行していた。

 

そして、小ドーナツは住宅街(駅単位)における駅近エリアとその他の駅遠エリア間の人口移動を捉えるもので、近年は共働き世帯の増加や駅近の高層マンションの建設などにより、駅近エリアを選好する傾向が見られていた。

 

このように、コロナ禍前は大中小の3つのドーナツすべてで周辺部から中心部へ人口が流入、すなわち逆ドーナツ化現象が進行していたと言える。

2―大ドーナツ:コロナ禍における東京一極集中の変化

コロナ禍で、地方から東京圏への人口流入のペースが減速したものの、東京一極集中の趨勢は反転に至っていない[図表2]。コロナ禍前の2019年には、東京圏の転入超過数が14.9万人に達し、これはリーマンショック前の15.5万人に迫る数字であった。

 

しかし、コロナ禍で、2020年9.9万人(2019年対比67%)、2021年8.2万人(同55%)、2022年10.0万人(同67%)とプラス幅が縮小した。

 

それでも、リーマンショック後の景気低迷期(2011年6.3万人)と比較すると、その落ち込みは小幅であった。

 

 

また、2023年には、進学や就職、人事異動が集中する3月に、東京圏への転入超過数が2019年の水準に戻った。これは、2023年中に東京一極集中がコロナ禍前のペースを取り戻す可能性が高まっていることを示唆している。

 

コロナ禍前の東京一極集中の主な要因は、大学卒業後の就職環境によるものであった。そのため、今後、東京一極集中がその勢いをどれほど回復するかは、20代の動向次第である。

 

年齢別に見ると、コロナ禍においてはほとんど全ての年齢層で東京圏への転入超過数が減少した。しかしながら、20代に関しては、2022年にはコロナ禍前の水準に戻りつつある。

 

特に、大阪圏(大阪府、兵庫県、京都府、奈良県)及び名古屋圏(愛知県、岐阜県、三重県)から東京圏への20代の転入超過数は、すでに2019年の水準を超えている。その一方で、その他地方の回復は遅れており、その他地方の20代の動向を注視する必要がありそうだ。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年7月7日に公開したレポートを転載したものです。

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