(画像はイメージです/PIXTA)

遺言書には法律によって定められた書き方があり、そこから外れると無効になってしまいます。ここでは遺言書の種類のほか、書き方やその効力について具体的に見ていきます。FP資格を持つ、公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

遺言書には、どんな種類がある?

生徒:先生、遺言に種類があると聞きました。どのような種類があるのか教えてもらえますか?

 

先生:遺言には、特別方式と普通方式があるんだけど、特別方式は緊急対応のための特別なものだから、普通方式だけ知っておけばいいよ。遺言には、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があるんだ。「自筆証書遺言」は、自分で書くもの。「公正証書遺言」は、公証人と証人に立ち会ってもらって作る遺言。そして、「秘密証書遺言」は、自分で書いた遺言書の存在を公証人と証人に証明してもらう遺言だね。

 

生徒:遺言が遺されていれば、それで遺産の分け方は決まってしまうのでしょうか。

 

先生:いや、遺言があっても、それですべてが決まるとは限らないよ。相続人には「遺留分」といって、法律で定められた最低限の遺産の取り分があるから、それを侵害するような遺言だと、その通りに分けられないんだよ。

 

生徒:もし遺留分を侵害してしまったら、どうなるんですか?

 

先生:遺言で遺留分を侵害された相続人は、遺留分に相当するお金を他の相続人へ支払うよう請求できるんだ。

 

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相続時に遺言書が出てきたら、どのように扱えば…

生徒:実際に遺言書が出てきたら、まず何をすればいいんですか?

 

先生:遺言は、遺言を作った人が亡くなったときに効力が発生するんだ。その際、遺言が偽造されてたものではないか、ほかの人によって書き換えられていないか調べる必要があるよ。これを「検認」というんだ。

 

生徒:偽造や改ざんされることもあるのですか?

 

先生:そうだね。検認が必要な遺言は「自筆証書遺言」と「秘密証書遺言」なんだけれど、遺言を書いた人が保管していたものだから、偽造や改ざんされていても、わからないんだよ。だから、自筆証書遺言の場合、法務局で保管してくれる制度があって、その場合には検認は必要ないんだ。

 

生徒:検認はどのように行われるのでしょうか。

 

先生:検認とは、相続人が家庭裁判所にお願いして確認してもらうこと。遺言書の形状、枚数、訂正した箇所があるか、日付、署名など明確にして、「検認済み証明書」を発行してもらう手続きだよ。相続人は遺言書を持参して、開封する場所で立ち会わないといけない。封がしてある遺言書ならば、その場で開けてもらうんだ。封がしてある遺言書を見つけたら勝手に開けてはいけないよ。

 

生徒:法務局が預かってくれることもあるんですね?

 

先生:自筆証書遺言は、自宅の金庫などに保管することが想定されていたんだけど、紛失、盗難や改ざんを防ぐために、法務局が預かってくれるんだよ。そうすると、遺言書が確実に相続人に渡されることになるからね。

 

生徒:「公正証書遺言」が出てきたときは、検認する必要はないんですか?

 

先生:「公正証書遺言」は、公証人が作成して、公証役場で保管されているから、検認する必要はないよ。

 

生徒:「公証人」と「公証役場」とはどのようなものでしょう?

 

先生:「公証人」というのは、遺言や離婚などの公正証書の作成、会社などの定款認証など、文書を公的に証明する人のこと。裁判官や検事として30年以上の実務経験がある法律の専門家だね。彼らが働く場所が「公証役場」なんだ。

 

生徒:もし遺言書が何通も出てきたら、どうすればいいでしょうか?

 

先生:いいところに気がついたね。遺言書は何度でも書けるので、実際には何通も出てくる場合があるよ。もし、複数の遺言書が出てきた場合は、最も新しい日付の遺言書が有効になるんだ。ただし、最も新しい遺言書のなかで、古い遺言書の内容を変えていなければ、古い遺言書の内容も有効となるよ。

遺言の効力が「無効」になってしまうケース

生徒:自筆証書遺言の書き方を教えてください。

 

先生:自筆証書遺言は、遺言の全文を自分で書くんだ。日付、氏名も自分で書いて、印鑑を押さないといけないよ。

 

生徒:自分で書くということは「手書き」ということですか? パソコンで書いてプリンターで印刷してはダメですか?

 

先生:パソコンで作って印刷したものや、音声を録音したものは、法律上、無効なんだよ。日付が書かれていないもの、印鑑がないものも無効だね。ただし財産目録だけは、パソコンで作って印刷してもいいよ。

 

生徒:財産目録って何ですか?

 

先生:個人財産をまとめた一覧表のこと。不動産、預貯金、有価証券などをリストに記載したものだよ。

 

生徒:公正証書遺言の書き方も教えてください!

 

先生:公正証書遺言は、公証人が書いてくれるので、遺言の内容を公証人に口頭で話すだけでいいんだよ。作成した遺言書は公証役場で保管されるので、無効になることはないよ。

 

生徒:公証人にお願いする費用はどれくらいですか?

 

生徒:遺言の対象となる財産の大きさによって変わるけれど、公証人の手数料は、3万円~5万円くらいだよ。追加の手数料が加算されることもあるけれど、10万円を超えることは少ないね。ただし、公証役場に行かず、公証人にこちらへ来てもらうときは、2万円くらいの報酬と交通費を支払わなければいけないよ。

 

※「目的の価格」とは、相続人ごとに受け取る財産の価格を算定して合計した額のこと。
[図表1]公正証書遺言作成の手数料 ※「目的の価格」とは、相続人ごとに受け取る財産の価格を算定して合計した額のこと。

 

※ 遺言手数料は、相続税が1億円に満たない場合に加算
[図表2]公正証書遺言作成手数料の計算方法 ※ 遺言手数料は、相続税が1億円に満たない場合に加算

 

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遺言書の記載事項と遺産分割協議

生徒:遺言書にすべての財産が書かれているとも限りませんよね? 不動産と預金はこの人に渡すと書いてあって、有価証券については書かれていないとか。

 

先生:そうだね、遺言書に一部の財産のことしか書かれていないケースはよくあるね。そのときは、遺言書に書かれていない財産の分け方について、相続人が全員で話し合って決めることになるよ。

 

生徒:相続人として、遺言書の内容に納得できないときは、どうすればいいですか?

 

先生:相続人の1人だけが納得できなかったとしても、ほかの相続人が納得していれば、文句は言えないんだ。でも、相続人の全員が納得していないときは、遺言に従わず、話し合いで決めることもできるんだよ。

 

生徒:相続人の1人が、遺言書に納得できないというのは、自分がもらえる財産が少なすぎて不満に思うケースですよね。遺留分を侵害されていた場合は、どうするんですか?

 

先生:その場合は、少なすぎて不満に思った相続人が、多めにもらった相続人に対して書面で通知を行うんだ。これを「遺留分減殺通知」と言うんだけれど、通常は内容証明郵便で送ることになるよ。相続開始を知ったときから1年以内に送らなければいけないんだ。それによって、侵害された遺留分に相当するお金を支払ってもらうんだよ。

 

生徒:通知された相続人が無視したらどうするんですか?

 

先生:その場合は、家庭裁判所に行って調停を始めることになる。侵害された金額に相当するお金を請求することになるね。それでも合意できなければ、訴訟を起こすしかないね。

 

生徒:遺産の取り合いで争うなんて、嫌ですね…。

 

先生:そうだね。遺言書を作るときは、相続人の遺留分を侵害しないような分け方にしておくほうがいいね。

 

生徒:遺言書について理解できました。ありがとうございました。

 

 

岸田 康雄
国際公認投資アナリスト/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/公認会計士/税理士/中小企業診断士

 

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