3.形成権の行使
(1)権利行使の段階で遺留分侵害額を明示する必要はない
遺留分権利者の権利行使によって遺留分侵害額に相当する金銭債権が生じますが(民法1046条1項)、この権利行使については、形成権の行使であるとされています。そのため、形成権行使の時点では、金額を明示する必要はないと考えられています。
また、形成権行使によって生ずる遺留分侵害額に相当する金銭債務は、期限の定めのない債務であるため、金額を明示して履行を請求した時点で、履行遅滞に陥ると考えられています(民法412条3項)。
ただし、形成権の行使と金銭債務の履行請求は、通常同時に行われ、その際の方法は、内容証明郵便の方法によることになると考えられます。
(2)遺留分侵害額請求権の期間制限
遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年間行使しないときは、時効によって消滅します(民法1048条前段)。また、権利行使によって生じた金銭債権は、民法166条1項1号の5年間の消滅時効にかかります(債権法改正施行前の場合には旧法167条1項の10年間の消滅時効)。さらに、相続開始のときから10年間の除斥期間が定められています(民法1048条後段)。
遺留分侵害額請求をする場合には、これら各期間制限に留意しながら権利行使をする必要があります。特に、形成権行使の期間は、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年間と短いため、金額の算定はさておき、遺留分侵害があるのであれば、少なくとも形成権行使だけは行っておくことも考えられます。
4.その他の遺留分侵害額制度等に関する参考文献
上記のほか、遺留分侵害額請求の制度等に関して、記事内で説明仕切れなかった内容等については、下記参考文献もご参照ください。
<参考文献>
・堂薗幹一郎=野口宣大編著『一問一答新しい相続法〔第2版〕─平成30年民法等(相続法)改正、遺言書保管法の解説』122〜159頁、170〜171頁(商事法務、2020年)
・森公任=森元みのり『法律家のための遺言・遺留分実務のポイント遺留分侵害額請求
・遺言書作成・遺言能力・信託の活用・事業承継』2〜110頁(日本加除出版、2021年)
・片岡武=管野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務〔第4版〕』548〜599頁(日本加除出版、2021年)
東京弁護士会弁護士業務改革委員会
遺言相続法律支援プロジェクトチーム
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