(2)Dの遺留分侵害の有無
相談の事例におけるDの遺留分侵害の有無は、次のとおり算定します。
①遺留分を算定するための財産価額の算定
=(積極財産)不動産5,000万円
+株式等の有価証券2,000万円+預金3,000万円
+Dに対する生前贈与額300万円
−債務額300万円
※B及びCに対する生前贈与は、15年前であるため加算しません。
②Dの遺留分率
1/8=1/2(民法1042条1項2号)×法定相続分1/4(民法900条1号)
③Dの遺留分
1,250万円=1億円×1/8
④Dの遺留分侵害額
25万円
=遺留分1,250万円−遺言によって取得した1,000万円−特別受益300万円+債務額75万円(債務額300万円×法定相続分1/4)
(3)遺留分侵害額請求の順序(負担割合)
遺留分侵害額請求は、受遺者又は受贈者に対して行います(民法1046条1項)。また、受遺者又は受贈者に対する請求の順序(負担割合)は、民法1047条に従って定められます。
ア 遺贈と贈与
①1番目
受遺者と受贈者がいる場合には、受遺者が先に遺留分侵害額請求を負担することになります(民法1047条1項1号)。なお、特定財産承継遺言は、遺贈と同順位と考えられています。
②2番目
受遺者が複数いる場合には、遺言者の別段の意思が表明されていない限り、遺贈の目的額割合に応じて負担することになります(民法1047条1項2号)。
③3番目
受遺者に対する請求を行っても、遺留分侵害額に満たない場合には、受贈者に対し、遺留分侵害額請求をすることになります(民法1047条1項1号)。
④4番目
受贈者が複数の場合には、新しい贈与を受けた者から遺留分侵害額を負担することとなり(民法1047条1項3号)、贈与が同時の場合には贈与の目的財産の価額割合に応じて負担となります(民法1047条1項2号)。
イ 死因贈与の取扱い
相続法の改正によっても、明文規定は設けられておらず、死因贈与の取扱いは解釈に委ねられています。なお、東京高判平成12年3月8日判時1753号57頁によれば、遺贈、死因贈与、その他の生前贈与の順になると考えられます。
ウ 受遺者等が相続人の場合の取扱い
受遺者又は受贈者の遺留分侵害額の負担額は、民法1047条に定められており、原則として、遺贈又は贈与の目的の価額を上限としています。もっとも、受遺者等が相続人の場合において、遺留分侵害額を定めるときは、当該相続人の遺留分の額を控除した額が上限となります(民法1047条1項柱書括弧書)。
(4)未分割遺産の取扱い
ア 未分割遺産の取扱い
遺留分侵害額算定において、遺留分権利者が遺産分割において取得すべき財産の価額が控除されます。
このとき、遺言で記載のない遺産がある場合、どのように取り扱うべきか問題となります。民法1046条2項2号は、「第900条から第902条まで、第903条及び904条の規定により算定した相続分」に応じて、と規定しており、法定相続分ではなく、具体的相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき財産を控除することとしています。なお、寄与分については考慮されません。
例えば、被相続人の相続人が子X、Yのみで(法定相続分は各1/2)、Yは15年前に1,000万円の生前贈与を受けており、遺産5,000万円のうち4,000万円は相続人外のZに遺贈する内容の遺言があるが、他に指定がないという場合の遺留分侵害額を算定すると、次のとおりとなります。
(具体的相続分・取得額の算定)
・Xの具体的相続分 500万円=1,000万円×1/2
・Yの具体的相続分 −500万円=1,000万円×1/2−1,000万円
⇒Xが遺産のうち遺贈を除く1,000万円を取得する。
(遺留分)
※Yに対する15年前の生前贈与は、遺留分の基礎財産を算定する際には加算されませんが、Yの遺留分侵害額を算定する場合には控除されます。
・Xの遺留分侵害額
=遺産5,000万円×1/2×1/2
−1,000万円(遺産分割から取得する価額)
=250万円
・Yの遺留分侵害額
=遺産5,000万円×1/2×1/2
−1,000万円(特別受益)
−0円(遺産分割から取得する価額)
=250万円
イ 金銭債務の取扱い
遺留分侵害額の算定において、遺留分権利者が相続によって負担する債務がある場合、この金額が加算されます(民法1046条2項3号)。これは、遺留分権利者が相続債務を支払ったあとの残額として、最低限の取得分である遺留分を得られるようにするためです。このとき加算する相続債務は、法定相続分又は指定相続分に応じて遺留分権利者が負担すべき金額です。
金銭債務は、相続により当然に共同相続人に法定相続分に従って承継され(最二小判昭和34年6月19日民集13巻6号757頁)、遺言で特定の相続人に債務を相続する旨記載しても、債権者に対して対抗することはできません。そのため、遺言書に記載をしても、当然に債務を承継することにはならず、金融機関等の債権者から承諾を得て、他の共同相続人を免責する免責的債務引受(民法472条)を行う必要があります。
なお、相続分の指定を行う場合は、相続法改正によって最三小判平成21年3月24日民集63巻3号427頁の考え方が明文化され(民法902条の2)、債務に関する相続分の指定にかかわらず、債権者は相続分に従った請求ができますが、債権者が承諾した場合にはこの限りではなく、債務を承継した相続人にのみ請求できることとなります。
相続分の指定がある場合に、遺留分侵害額を算定する際に加算する債務額は、債権者の承諾の有無とはかかわりなく、相続人間の内部負担割合を基準とするために、民法1046条2項3号では、「第899条の規定により遺留分権利者が承継する債務…の額」と定められています。
なお、被相続人は、積極財産と債務を個別に決めることはできません。例えば、全財産を相続人Aに相続させるという特定財産承継遺言をしつつ、債務については相続人Bがすべて相続するとして相続分を定めるといった方法をとることはできません。
被相続人は、自ら負担した債務に関する処分権原はなく、民法899条は、「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。」と定めており、被相続人は、相続分の指定を通じて、「権利」である積極財産の承継割合を定め、これに応じて、「義務」である債務の承継割合を定められるにすぎません。
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