(※画像はイメージです/PIXTA)

2023年6月22日、東京都世田谷区が、2023年度に「ふるさと納税」により97億円の税収が他の自治体に「流出」したことを公表しました。他にも同様の問題を抱える自治体が数多くあります。また、ふるさと納税については、自治体が負担する経費率が2021年度の経費総額が寄付額の46.4%にのぼることがわかっています(総務省発表)。これらは結果的に「増税」につながる可能性もあります。本記事で解説します。

ふるさと納税のしくみ

まず、ふるさと納税のしくみについて簡単に説明します。

 

ふるさと納税は、好きな自治体(都道府県、市区町村)に対する「寄付」をすると、寄付金額から2,000円が税金から差し引かれて戻ってくるというものです。

 

「税額控除」または「還付」という形をとります。

 

多くの自治体は「返礼品」を送ってくれるので、ふるさと納税をする人は、実質的に、2,000円のみの自己負担で「返礼品」を手に入れることができます。

 

たとえば、九州のとある自治体に「5万円」を寄付し、返礼品としてクエ鍋セット(市場価格2万円相当)を受け取った場合、市場価格2万円と自己負担額2,000円の差額の1万8,000円分を得することになります。

 

【図表1】「自己負担額2,000円」で「2万円相当のクエ(小)1尾」を受け取る

 

自治体の負担が大きくなる「ワンストップ特例」

「寄付額-2,000円」を取り戻す手続きは「確定申告」と「ワンストップ特例」の2つがあります。「ワンストップ特例」は、確定申告でほかに控除等の制度を受けない場合に利用できるもので、簡易な手続きで済むものです。

 

【「確定申告」を選んだ場合】

・所得税:「寄付額-2,000円」×所得税率の額(A)が返ってくる(還付)

・住民税:翌年支払う居住自治体の住民税の額から「寄付額-2,000円-A」が差し引かれる(税額控除)

 

【「ワンストップ特例」を選んだ場合】

・所得税:控除なし

・住民税:翌年支払う居住自治体の住民税の額から「寄付額-2,000円」が差し引かれる(税額控除)

 

いずれも、戻ってくる額の総額は同じです。しかし、国・居住自治体の負担のあり方が違います。

 

すなわち、「確定申告」を選んだ場合、所得税(国の税金)と、住民税から戻ってきます。つまり、国と居住自治体が負担を分け合うことになります。

 

これに対し、「ワンストップ特例」の場合、全額を居住自治体が負担することになります。

 

「確定申告」の場合との差額を、国が補てんする制度はありません。したがって、「ワンストップ特例」を利用する人が多くなるほど、居住自治体の負担が大きくなるということです。

 

「ワンストップ特例」は2015年から簡易な制度として導入されました。これによってふるさと納税を利用する人は格段に増加しました。その反面、冒頭で述べた東京都世田谷区のような、「税収の流出」の問題に悩む自治体も増加することになりました。

 

ちなみに、東京23区は地方交付税交付金の不交付団体であり、現状では、流出分を他からカバーする制度がありません。

居住自治体の行政サービスの財源が不足する可能性も

ふるさと納税によって他の自治体への税収の流出が増加すると、地方自治体の行政サービスに支障をきたす可能性があります。

 

たとえば「ごみの収集・処理」、「上下水道」や、道路・公共施設等の「インフラ整備」といった、住民の日常生活に欠かせない事業を維持するための財源が不足するおそれがあります。

 

ふるさと納税を行うと、住民として負担すべきそれらのコストの一部を他に流出させる面があることは否定できません。

 

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