父親の相続、円満着地の予定が「弟夫婦の不仲」で波乱の予感
今回の相談者は、50代の会社員の鈴木さんです。半年前に父親が亡くなり、相続が発生しましたが、それに伴い、きょうだいの配偶者の問題で悩んでいると、筆者のもとを訪れました。
鈴木さんの母親はすでに亡くなっており、父親の相続人は、鈴木さん、鈴木さんの姉(50代)と弟(40代)の3人です。
鈴木さんの父親の財産は、自宅敷地と建物、敷地内に建てられたアパート1棟でおよそ4000万円程度、それ以外は現金が1000万円程度です。父親名義のアパートは建設時の借入が残っており、相続税の申告は不要な状況にあります。
「私と姉が心配しているのは、実家不動産の行方なのです」
鈴木さんは心配そうに相談を切り出しました。
弟は実家から家出、妻子だけ残っている状態で…
鈴木さんの父親が暮らしていた実家には、長男である弟家族が同居していました。鈴木さんも姉も結婚して実家を離れており、また、それぞれ自宅を購入していることから、不動産はすべて長男が継ぐということで、関係者の全員が納得していました。
自宅の敷地は、もともと母親の所有地で、母親が亡くなったとき、父と弟が6:4の割合で共有にしています。
「父は遺言書を残さずに亡くなりました。そのため、私たちきょうだい3人での遺産分割協議をすることになるのですが、実は、父が亡くなる前、弟がお嫁さんと仲たがいをしてしまいまして…」
鈴木さんがいうには、理由はよくわからないものの、弟夫妻の関係が悪化し、弟がひとり、家を出てアパート暮らしをしているそうなのです。
「ただの夫婦げんかならいいのですが、どうもそうではなく…。もしかしたら、離婚になるかもしれません」
弟がいなくなった実家には、依然として弟の妻と子どもたちが暮らしています。弟の子どもは3人いて、そのうち2人はまだ学生です。
「弟には子どもがいますから、弟が相続すれば、夫婦が離婚しようとどうしようと、最終的に実家はその子たちのものになります。ですが、子どもたちが相続するまでの間、弟夫婦が主導して、法事やお墓の管理をすることを前提に考えていましたから…」
将来、弟が不動産のすべてを相続したとしても、弟が実家を出たまま、子どもたちを住まわせる可能性はじゅうぶんあります。もし離婚した妻もそこに留まれば、先祖代々の仏壇はどうするのか等、ややこしい話になりそうです。
「いくら実家が弟名義になっても、弟が実家を離れていたら、弟の管理下には置けません。そうなれば、弟のお嫁さんが好き勝手する可能性がある。それはどうしても納得できなくて…」
もし弟夫婦が離婚したとして、子どもたちが妻側についたら、子どもたちにお墓の管理を任せることはできないでしょう。また、もし弟夫婦が離婚しなくても、関係が悪いまま弟が先に亡くなれば、実家もアパートも、諸々「嫁の財産」になってしまう可能性があります。
実家やお墓、弟の妻子に好き勝手されないようにしたい
弟夫婦の現状を見ると、実家とアパートのすべてを弟名義にするには不安がある、というのが鈴木さんの相談の趣旨でした。
筆者の事務所の提携先の税理士は、鈴木さんの話に熱心に耳を傾けたあと、しばらく考え込み、将来的に問題は残るが…と前置きしたうえで、その状況なら、土地を一部共有する方法もあると、提案しました。
両親が維持してきた実家をきょうだいで守っていくということなら、父親の土地の名義を鈴木さんか姉、あるいは2人にしておくことで、きょうだいの共有状態にできます。すでに弟の名義となっている部分については、弟の相続時に妻子のものになりますが、それでも、不動産のすべてが妻子のものとなるより、実家の維持という意味では、抑止力になるでしょう。
ただ、共有状態にすると、相続時に関係者が増えてしまいます。そのため、将来のいずれかの時点で、何らかの方法で共有状態を解消する必要があるといえます。
鈴木さんは一度この話を持ち帰りました。
相続人同士で「財産の今後」について話し合いをしておく
それからしばらくして、鈴木さんから連絡がありました。
「姉と一緒に弟のアパートに行きました。きょうだいで腹を割って話し合った結果、弟もお墓や仏壇の心配をしていました。やはり父の土地は、私と姉の共有名義にすることになりました」
これまで筆者が受けた相談のなかで、財産の行方を心配するものとして多いのが、子どものない夫婦の相続問題です。親から承継した財産が、将来的に、血縁のない配偶者側の親族に渡ることに納得できない思いを感じ、なんとか阻止する方法はないかと、遺言書や信託などの対策を講じることがあります。
鈴木さんの弟には子どもがいるため、それとは話が違うのですが、それでも、お墓や仏壇を含めた「先祖代々の財産」が、弟の管理下から離れ、関係の悪い配偶者や、親族としてのつながりの意識が薄くなった子どもたちに軽く扱われるのは困る、という思いが、このような決断をさせたといえるでしょう。
資産の活用という意味では課題が残り、また、共有問題などによる将来的な懸念もありますが、今後、これらの財産をどうしていくかについて相続人同士で話し合っておき、売却や名義変更といったルールを定めておくことが重要です。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。