子どものない姉が亡くなり、相続人となった弟
今回の相談者は、60代会社員の井上さんです。亡くなった姉の相続について相談したいと、筆者のもとへ訪れました。
「私は亡くなった姉と2人きょうだいです。両親は幼いころに離婚していて、2人とも母に引き取られ、母の実家で育ちました。父とはその後、一度も会っていません」
井上さんと姉は、母親や祖父母に大切に育てられ、無事に社会人となって独立しました。それぞれ結婚し、家庭を持ったあとも、定期的に連絡を取り合うなどして交流を続けていました。
「2カ月ほど前、突然、姉の友人という人から連絡があり、姉が急病で亡くなったと知らされました。姉は子どもがなく、義兄も数年前に亡くなっています。そのため、私が葬儀の手配をすませたのですが…」
夫も子どももないことから、姉の相続人は弟の井上さんです。姉の財産は、夫から相続した戸建てと預金で1800万円程度。この相続の手続きを相談したいというのが、井上さんの希望でした。
資産額から、相続税の申告が不要であることをお知らせし、姉の家をどうしたいか希望を伺うと、井上さんはすでに自宅があることから、売却したいとのことでした。
売却するにはまず名義を変える必要があります。早速、相続登記の準備を進めることになりました。
顔も知らない父は、後妻との間に4人の子を…
筆者と提携先の司法書士が井上さんと姉の戸籍を取り寄せて確認したところ、困った事態が判明しました。
井上さんの父親は再婚しており、後妻との間に子どもが4人いることがわかったのです。つまり、井上さんと姉にとっての異母きょうだいです。
井上さんは、自分ひとりが相続人だと思っていましたが、異母きょうだい4人の出現で、相続人は5人になります。
「だれですか、この人たち…!?」
「父親の顔すら知らないのに、存在も知らないきょうだいがいたなんて…」
父親の顔すら知らない井上さんにとっては、まさに青天の霹靂であり、事情を聞くと言葉を失い、呆然とされてしまいました。
見も知らぬきょうだいへ、相続手続きの協力を仰ぐ
相続手続きのためには、まずは異母きょうだいたちに姉と井上さんの存在を知らせ、姉の相続手続きに協力してもらうよう、コンタクトを取る必要があります。
井上さんのケースでは、遺産分割協議というより、井上さんに相続の権利を譲渡してもらうよう、いくばくかのハンコ代で協力をお願いすることが現実的だと考えられますが、実際に対応してみないと、なんともいえないといったところでした。
司法書士は、井上さんの代理としてきょうだいたちにコンタクトを取り、事情を説明したところ、皆さん驚かれたものの、揉めることもなく、快く協力してくれました。
「本当に驚きましたし、心配しましたが、スムーズに話が進んでよかったです…」
井上さんは安堵されました。
井上さんのようなケースは、戸籍上はきょうだいであっても、一般的なきょうだいの感情がない状態だといえます。その場合は、事実関係を伝え、協力してもらえるよう慎重に対応・交渉を進めることになります。
また、今回井上さんがラッキーだったのは、異母きょうだいが全員存命であり、連絡が容易に取れたことです。もし亡くなっていて、その方に子どもがいる場合は、子どもと連絡を取り、交渉しなければなりません。そうなれば交渉すべき人数も増える可能性が高く、また、連絡がつかない相続人がいれば、手続きはさらに面倒になります。
井上さんのように、相続が発生してから自分以外の相続人の存在を知る方は、じつはそれほど珍しくありません。センシティブな話ではありますが、有効な相続対策をとるためにも、親族間での情報共有は重要だといえるでしょう。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。