タワマンの快適性は、ほぼ「インフラ機能」に依存している
2023年6月初旬、「スーパー台風」と称された台風2号が日本列島を襲いました。とくに西日本から東日本の太平洋側は記録的な大雨に見舞われ、自然災害とは無縁と思われていた東京都内でも、新幹線の運休など大きな影響があったことは記憶に新しいところです。
あるタワーマンションでは、エレベーターシャフト(エレベーターが走行する縦穴型の空間)の地下ピットに大量の雨水が溜まってしまい、数日間エレベーターが動かなかったところもあったと聞きます。10階建て程度ならまだしも、30階やら50階といったタワーマンション住まいでは、買い物など些細な外出もひと苦労です。
タワーマンションでの快適生活はさまざまなインフラ機能によって支えられており、戸建住宅や低層マンションなどと比較してもその依存度は非常に高いといえます。これが電気・水道・ガスなどのライフラインが断絶される大地震発生となったら、一体どうなるのでしょうか。
大震災時の缶詰状態、最低1週間は継続か
タワーマンションに暮らすことは「成功者の証」とも例えられます。しかし、日本の夏の風物詩である台風程度でこのような被害に苛まれるのでは、その権威も危ぶまれます。タワーマンションは天災に弱いということを真摯に受け止め、いつ起きてもおかしくないといわれる首都直下地震に備えるべきでしょう。
東京都防災会議が2022年に発表した「東京都の新たな被害想定」では、東京都内で最大規模の被害が想定される地震(都心南部直下地震)で、震度6強以上の範囲は区部の約6割に広がり、建物被害は19万4431棟、死者は6,148人と想定しています。加えて、このような大規模地震が発生した際にインフラ・ライフラインの復旧までにどのくらいの期間がかかるかについても下記のように予測しています。
インフラ・ライフラインの復旧目安
【地震発生1日後】
電力:広範囲で停電が発生。広い地域で計画停電が実施される可能性。
上水道:断水が発生。
下水利用:排水管等の修理が終了するまで、集合住宅ではトイレ利用が不可。
ガス:安全措置が作動し、広域的にガス供給が停止。
【地震発生3日後】
電力:徐々に停電が減少。
上水道:断水の復旧は限定的。
下水道:一部地域で下水利用が困難な状況が継続。
ガス:一部の利用者への供給停止が継続。
【地震発生1週間後】
電力:計画停電が継続する可能性。
上水道:断水・濁水は段階的に解消されるが、浄水施設等の被害による断水は継続。
下水道:水道供給が再開してもトイレ利用が不可。
ガス:(引き続き)一部の利用者への供給停止が継続。
大地震発生後、当面の間は電気・水道・ガスといったライフラインの寸断は覚悟しなければなりません。また地面が液状化してしまった地域等では、公共の上下水道管やガス管の破損も考えられるので、その復旧には1ヵ月以上かかります。
タワーマンションでは、地震発生直後から安全確保のためエレベーターは停止します。廊下や階段、エントランスといった共用部の照明は非常用発電機に切り替えられます。マンションによっては非常用エレベーターが稼働しますが、これはあくまで防災用のため一般居住者は利用できません。
これらの状況を鑑みると、地震発生後は最低でも1週間程度、自宅に缶詰状態になることが想定されます。
建物構造によって被害状況も変わる?
それぞれのタワーマンションが採用している「建物構造」によっても地震による被害に違いがあるようです。建物構造には大きく分けて以下の3つの種類があります。
耐震構造:頑丈な柱・梁・壁によって地震の揺れに耐える建物構造。
制振構造:地震の揺れを吸収する制振部材を骨組に採用した建物構造
免震構造:建物の底に免震装置を設置して地震の揺れを吸収する建物構造。
耐震構造とは、読んで字のごとく“地震に耐える造り”ということです。揺れをそのまま受け止めてしまうため建物自体のダメージが大きくなり、柱や壁ばかりでなくライフライン配管の破損も免れません。建物の損傷が多い分、日常生活復旧までの期間も長くなります。
制振構造は、弾力性のある制振部材が地震の揺れを受け止めて、建物のダメージを和らげるものです。タワーマンションのような高層建物の場合は各階に制振部材が設置されるので、耐震構造と比較して地震の揺れを小さく抑えられます。
免震構造は、地面に近い部分に設置された免震装置が地震の揺れを吸収して建物の損傷を防ぐもので、耐震構造や制振構造と比較してもっとも地震の被害を受けにくい構造といわれます。ただし地震が起きた際は「長周期地震動」の影響を受けやすく、固定されていない家具や大型家電が転倒してしまう危険性があります。
管理組合の取り組み状況も要チェック
近年のタワーマンションでは、エレベーター1基、非常灯、駐車装置、水道設備類を24時間から72時間稼働させる分の燃料を備蓄することが常識となりつつありますが、管理組合の取り組み方よってもその充実度は異なるでしょう。タワーマンションをはじめ共同住宅に住む人たちには、共用部に以下の備えがあるかどうか確認することをお勧めします。
●非常用発電機(最低限の照明、非常用エレベーターの運行)
●緊急地震速報サービス(各住戸のインターホンや館内放送で音声通報)
●防災備蓄倉庫(長期保存可能な非常食や飲料水、応急救助物資などを保管)
タワマン入居者、災害時の「1週間缶詰」を念頭に事前対策を
タワーマンションは天災に弱く、大地震発生時には最低でも1週間程度自宅内に缶詰状態になることを覚悟する必要があります。
それぞれのタワーマンションが採用している建物構造によっても地震時の被害に違いがあり、構造ごとのメリット・デメリットを把握しておくことも大切です。加えて、現在入居しているタワーマンションの管理組合が、災害等に対してどのような備えをしているのかも確認しておきましょう。