不動産会社営業マン「パワーカップルはタワマン好き」
不動産経済研究所発表の『超高層マンション動向2023』では、2023年以降に完成を予定しているタワマンは、287棟/11万4,205戸に達し、前年度調査と比べて23棟/1万5,247戸増加しているという。そのうち首都圏は168棟/8万4,671戸で、全国シェアは74.1%とある。
また2022年に完成したタワマンは33棟/8,244戸で、首都圏10棟/3,801 戸、近畿圏8棟/1,748戸、その他の地域が15棟/2,695戸だった。
このように、近年もタワマン人気は続いている。必ずしも実需ばかりではないが、年収が軽く大台を超えている経営者、士業、医師、高所得サラリーマンのなかには、タワマン住まいをステータスと考える人たちも多いが、そのなかでもとくに、夫婦とも高所得の場合、その傾向は顕著だという。
ある不動産会社の営業マンは語る。
「私は高所得な方々の資産形成の相談に乗っていますが、ご夫婦それぞれが1000万円近く稼いでいるパワーカップルは、とくにタワマン住まいが多いですね」
いくら稼いでいても、端から消費してしまえば…
営業マンは話を続ける。
「たいていのお客様は、教育費だけでなく、高級乗用車、友人とのお付き合いなど、かなりのお金を費やしている印象です」
彼らの多くは子どもたちを私立の有名校に通わせ、夫婦の通勤と子どもたちの通学に便利な駅近のタワマンに暮らす。その生活ぶりはまさに「勝ち組そのもの」だ。
下記は、総務省「家計調査」から、家計の収支の平均値と、1,500万円以上の世帯の支出を比較したものである。
【年間収入階級別1世帯当たり1ヵ月間の収入と支出】
食料…………………80,502円 / 120,178円
光熱・水道…………24,421円 / 29,898円
家具・家事用品……13,000円 / 24,245円
被服及び履物………11,293円 / 26,835円
保健医療……………13,708円 / 22,512円
交通・通信…………50,688円 / 76,649円
教育…………………18,126円 / 51,155円
教養娯楽……………29,737円 / 64,243円
出所:総務省「家計調査」家計収支編
※ 支出項目の金額は(平均値/1,500万円以上世帯)
※ 住居費を除く
ほとんどの項目で1,500万円以上世帯が金額を上回っているが、とくに教育と教養娯楽費の開きは顕著である。
また、1ヵ月の可処分所得と黒字だが、可処分所得の平均が50万0,914円のところ、1,500万円以上世帯は103万5,312円だ。黒字は、平均18万0,286円のところ、1,500万円以上世帯は47万7,118円となっている。
これだけあれば、きっと彼らの将来は安泰だろうと思うが、実情は異なるようだ。
「タワマンに暮らすカップルは、ご自分たちの生活とお子さんの教育費に惜しまずお金を使っている印象です。ですが、お子さん2人を私立の学校に学ばせ、さらに塾や習い事が入ってくれば、月々の出費は相当でしょうね。プラス、住宅ローン、クルマなどの維持費、お付き合いなども重なってくる。実家が太いなどの事情がなければ、かなり苦しいと思いますよ」
「自分の力で成り上がった人ほど、危うい」という説も
そもそもタワマンは周辺の同程度の物件よりも3割ほど割高であり、東京区部の場合、平均値の3割増しで計算すれば1億0,991万円と「億」を超える。
仮に、その価格のタワマンを「元利均等、金利0.5%で30年返済、物件価格の1割頭金」で購入したとすると、支払総額は、1億0,653万4,018円、利息だけで762万4,018円。月々の返済は29万5,928円にのぼる。
高額な給料を得て、活発な消費活動を行ってきた人は、住宅ローンを組んだからといって、そう簡単に節約生活へは切り替えられない。高給を得てきたサラリーマンが、年金生活に切り替わっても生活レベルと落とすことができず、ジリ貧になってしまうのと同じ構造だ。
「一度染みついたお金の使い方を変えるのは、容易なことではありませんよ」
営業マンは声を潜めて語る。
「親が代々の資産家で、子どものころから裕福な生活を送ってきた人は、消費と節約のメリハリがつけられるし、そもそもお金の管理の基本ができています。だって、それができなければお金持ちにはなれませんからね。親から文化として受け継がれているのですよ。アグレッシブに働いて、初めて大金をつかんだ人ほど危うい。少なくとも、私が見た限りでは…」
威容を誇るタワマンから、颯爽と仕事に向かう壮年男女だが、同じ建物に暮らす彼らであっても、生活ぶりは一様ではない。「勝ち組のなかの勝ち組」「勝ち組のなかの負け組」、そして、いずれその場にいられなくなる「落ちこぼれ組」といった構図が透けて見える。