(写真はイメージです/PIXTA)

今年の「女性活躍・男女共同参画方針」の原案には、東京証券取引所の「プライム市場」上場企業に対し、2030年までに女性役員の比率を30%以上にするよう目指す旨のほか、働く人の男女間賃金格差について公表を義務付ける対象企業の拡大を検討することが提案されました。女性の老後のリスクマネジメントという観点からも注目すべきこのトピックについて、ニッセイ基礎研究所の坊 美生子氏が考察します。

厚生年金保険(第1号)の年金月額階級別受給権者数

 

ただし、筆者が「男女間賃金格差の解消」を重要視しているのは、このような企業活動や経済に寄与するためだけではなく、当然ながら、女性自身の生活水準を守る指標になるからだ。現役時代の賃金が安定すれば、老後の年金も充実し、安心した老後の暮らしにつながるためである。

 

年金の受給金額は基本的に、現役時代の賃金と勤続年数(保険料を納めた期間)によって決まる。したがって現在は、国内の男女間賃金格差と勤続年数の格差が、老後の男女間年金格差を引き起こしている。

 

厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業年報」(令和3年度)によると、厚生年金保険受給権者の平均年金月額は、男性が16万3380円に対し、女性が10万4686円と、女性は男性の3分の2に過ぎない。

 

勿論、受給額には個人差があるが、金額別の分布を見ても、違いは明らかである(図表3)。図表の左右(男女)で山の形は非対称となっており、男性(青色)のピークは「17~18 万円」であるのに対し、女性(赤色)のピークは「9~10万円」である。

 

同年報から厚生年金の保険料を納めた期間を見ると、男性の平均加入期間443か月(36年11か月)に対し、女性は337か月(28年1か月)と、やはり女性は男性の4分の3である。

 

女性の中では妊娠や出産を機に会社を退職し、子が成長した後に再就職するパターンも多いが、仮にフルタイムの仕事に再就職できたとしても、トータルの加入期間は短くなる上、キャリアの中断によってその後の賃金アップが抑制されれば、年金水準も抑制されることになる。パートなどの非正規雇用で再就職すると、さらに年金水準は低くなる。

 

 

 

「夫が仕事、妻は家事育児」という固定的な性別役割分担意識が強かった時代には、男女間の賃金格差も、年金格差も、所与の物として受け止められていたのかもしれない。妻の賃金(年金)が低くても、夫が高水準の賃金(年金)を得ているなら、家計には支障がないという見方もできる。

 

しかし、先進諸国ではジェンダーギャップは公正、公平に対する課題だとみなされる。家庭の中で女性が弱い立場に置かれることを防ぐためにも、女性の賃金水準と年金水準を引き上げ、女性の経済的自立を促していくことが重要ではないだろうか。
 

今から3年後の2026年には、採用や昇進での性差別を禁止した男女雇用機会均等法施行から40年、女性活躍推進法施行から10年を迎える。女性活躍推進法は10年間の時限立法だが、図表2で示したように、日本の男女間賃金格差の縮小ペースは緩やかであり、法の趣旨が実現するまでには当分、時間がかかりそうである。

 

ここから「男女間賃金格差」という女性の雇用に関する根本的な課題に取り組むことで、女性人材の採用、育成、登用という持続的なサイクルにつながり、女性個人も、より安心できる老後を迎えられるようになるのではないだろうか。

 

 


1 同調査では、「賃金」は所定内給与額であり、所得税などを控除する前の金額。残業代は含まれない。
2 坊美生子(2023)「『106万円の壁』だけではない主婦の就労を妨げるもう一つの壁~働いても老後の年金には男女格差」(研究員の眼)
3 ただし、企業によっては「男女間賃金格差の解消」だけ女性活躍の土壌を整えたと言いきれない場合もある。例えば男女間賃金格差が小さくても、そもそも女性従業員の比率が低ければ、女性が働き続けることが難しい職場だという場合も考えられる。従って、様々な指標を用いて状況を把握していく必要がある。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年6月14日に公開したレポートを転載したものです。

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