厚生年金保険(第1号)の年金月額階級別受給権者数
ただし、筆者が「男女間賃金格差の解消」を重要視しているのは、このような企業活動や経済に寄与するためだけではなく、当然ながら、女性自身の生活水準を守る指標になるからだ。現役時代の賃金が安定すれば、老後の年金も充実し、安心した老後の暮らしにつながるためである。
年金の受給金額は基本的に、現役時代の賃金と勤続年数(保険料を納めた期間)によって決まる。したがって現在は、国内の男女間賃金格差と勤続年数の格差が、老後の男女間年金格差を引き起こしている。
厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業年報」(令和3年度)によると、厚生年金保険受給権者の平均年金月額は、男性が16万3380円に対し、女性が10万4686円と、女性は男性の3分の2に過ぎない。
勿論、受給額には個人差があるが、金額別の分布を見ても、違いは明らかである(図表3)。図表の左右(男女)で山の形は非対称となっており、男性(青色)のピークは「17~18 万円」であるのに対し、女性(赤色)のピークは「9~10万円」である。
同年報から厚生年金の保険料を納めた期間を見ると、男性の平均加入期間443か月(36年11か月)に対し、女性は337か月(28年1か月)と、やはり女性は男性の4分の3である。
女性の中では妊娠や出産を機に会社を退職し、子が成長した後に再就職するパターンも多いが、仮にフルタイムの仕事に再就職できたとしても、トータルの加入期間は短くなる上、キャリアの中断によってその後の賃金アップが抑制されれば、年金水準も抑制されることになる。パートなどの非正規雇用で再就職すると、さらに年金水準は低くなる。
「夫が仕事、妻は家事育児」という固定的な性別役割分担意識が強かった時代には、男女間の賃金格差も、年金格差も、所与の物として受け止められていたのかもしれない。妻の賃金(年金)が低くても、夫が高水準の賃金(年金)を得ているなら、家計には支障がないという見方もできる。
しかし、先進諸国ではジェンダーギャップは公正、公平に対する課題だとみなされる。家庭の中で女性が弱い立場に置かれることを防ぐためにも、女性の賃金水準と年金水準を引き上げ、女性の経済的自立を促していくことが重要ではないだろうか。
今から3年後の2026年には、採用や昇進での性差別を禁止した男女雇用機会均等法施行から40年、女性活躍推進法施行から10年を迎える。女性活躍推進法は10年間の時限立法だが、図表2で示したように、日本の男女間賃金格差の縮小ペースは緩やかであり、法の趣旨が実現するまでには当分、時間がかかりそうである。
ここから「男女間賃金格差」という女性の雇用に関する根本的な課題に取り組むことで、女性人材の採用、育成、登用という持続的なサイクルにつながり、女性個人も、より安心できる老後を迎えられるようになるのではないだろうか。
1 同調査では、「賃金」は所定内給与額であり、所得税などを控除する前の金額。残業代は含まれない。
2 坊美生子(2023)「『106万円の壁』だけではない主婦の就労を妨げるもう一つの壁~働いても老後の年金には男女格差」(研究員の眼)
3 ただし、企業によっては「男女間賃金格差の解消」だけ女性活躍の土壌を整えたと言いきれない場合もある。例えば男女間賃金格差が小さくても、そもそも女性従業員の比率が低ければ、女性が働き続けることが難しい職場だという場合も考えられる。従って、様々な指標を用いて状況を把握していく必要がある。
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