フタを開けると家計は「破産ギリギリ」!?
近年よく耳にする「パワーカップル」という言葉。正確な定義はないが、一般的には、それぞれが700万円以上稼ぐ、世帯年収1,400万円以上の夫婦を指すことが多いようだ。
日本のサラリーマンの給与が伸び悩み、稼げる人とそうでない人の二極化が進んでいるなか、大台である1,000万円を軽く超えているとなれば、羨まずにはいられないだろう。
彼ら高額な収入を得ている人たちは、大手企業勤務のビジネスマンのほか、弁護士や会計士といった士業、医師、会社経営者、不動産オーナーなどが多い。多くは高学歴で、組織に所属している場合も職位も高い。
しかし、ある金融機関の融資担当は語る。
「周囲がうらやむようなパワーカップルなのに、フタを開けると家計は破産ギリギリというケースは、決して少なくないのですよ」
彼らに共通するキーワードは「タワマン」だという。どういうことか。
利便性、教育環境、その他、複合的な要因から選ばれるタワマン
融資担当者は言葉を続ける。
「ご夫婦で高い給与を得ている〈パワーカップル〉ですが、たとえば30代になってお子さんが生まれてしばらくたつと、自宅購入を検討されます。ほとんどの場合、ご夫婦は都内にお勤めなので、候補地はおのずと23区内となります」
住居の広さ、子どもたちの学校、その他を複合的に検討した結果、第一候補に挙がりやすいのが、湾岸のタワマンだ。
「たいていのご家庭は、お子さんを小学校から私立に通わせることをお考えです。それに付随して、塾や習い事、送迎のための車など、いろいろ費用がかさんでいる印象ですね」
下記は、総務省「家計調査」から、家計の収支の平均値と、1,500万円以上の世帯の支出を比較したものである。
【年間収入階級別1世帯当たり1ヵ月間の収入と支出】
食料…………………80,502円 / 120,178円
住居…………………20,115円 / 19,635円
光熱・水道…………24,421円 / 29,898円
家具・家事用品……13,000円 / 24,245円
被服及び履物………11,293円 / 26,835円
保健医療……………13,708円 / 22,512円
交通・通信…………50,688円 / 76,649円
教育…………………18,126円 / 51,155円
教養娯楽……………29,737円 / 64,243円
出所:総務省「家計調査」家計収支編
支出項目の金額は(平均値/1,500万円以上世帯)
ほとんどの項目で、1,500万円以上世帯が金額を上回っているが、なかでも教育と教養娯楽費の開きは大きい。
また、1ヵ月の可処分所得と黒字については、可処分所得の平均が50万0,914円であるのに対し、1,500万円以上世帯は103万5,312円。黒字は、平均18万0,286円であるのに対し、1,500万円以上世帯は47万7,118円となっている。
1,500万円以上になると、相当な金額が黒字になる。これだけあれば、日常生活にもゆとりがあり、老後資産の形成も楽勝ではないか――。そのように思えるかもしれない。
1億円超のマンション購入で、生活状況は一気に厳しいものに
しかし、上記はあくまでも「平均値」だ。仮に1,500万円の世帯所得があっても、住宅の購入や、子どもの私立学校への進学があれば、話はまた別になる。
もし仮に、ローンを組んで高額な住宅を購入したとしたらどうなるか。
近年ではマンション価格の上昇が続いているが、それを牽引しているのが「タワマン」だ。防災力強化を目指した区画整理や、高度成長期に建設された建築物の劣化に伴い、各地で再開発ラッシュがおきているが、そこに計画されるのが「大規模タワマン」の建設である。タワマンというだけで、周辺の同程度の物件よりも3割ほど割高となる。東京区部の場合、平均値の3割増しなら1億0,991万円で、普通に「億超え」なのである。
では、その価格のタワマンを購入したらどうなるか。元利均等、金利は0.5%で30年返済、物件価格の1割を頭金として払った場合で考えると、支払総額は、1億0,653万4,018円、利息だけで762万4,018円。月々の返済は29万5,928円。返済負担率を25%とした場合、年収は1,420万4,544円だ。
上述の金融機関の融資担当は言う。
「住宅ローンについてのみ申し上げるなら、世帯収入1,500万円のご夫婦であれば審査は通るでしょう。しかし、ほかの支出に注意をしないと、すぐ赤字に転落しかねません」
これまで高額な給料を得て、活発な消費活動を行ってきた人が、住宅ローンを組んだことをきっかけに、一気に生活レベルを落とすことはできにくい。子どもの教育費は織り込みずみだろうが、それ以外にも、こまごました日用品の購入から外食費、レジャー費、車の維持費など、ひとつひとつは「どうにかやりくりできる」ものであっても、それらがいくつも積み重なっていくと、家計的には相当な負担となる。
「一度身についたお金の使い方は、なかなか変わりませんね…」
生活全般において、無理して周囲に合わせたり、見栄を張ったりしないこと。なにより、しっかり節約を心がけること。夫婦のどちらかの給料が減った場合に、すぐさま行き詰るような危険な資金計画を立てるのは避けることが重要だ。
「どうしてあの人たちが…?」
「お金持ちだと思っていたのに…」
破産して、周囲からこのように驚かれるのは非常につらいだろう。
もちろん当人たちも、日々の生活の積み重ねの結果、破産に至ってしまったとしたら、それこそ「なにかの間違いではないのか?」「どうしてこんなことになってしまったのか?」と、呆然とすることになる。
大切なお子さんの将来のためにも、給与額にかかわらず、くれぐれも慎重に資金計画を立てたいものだ。
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