(※写真はイメージです/PIXTA)

電力料金やガソリン料金が大幅に値上がりしていることから、政府は電力料金やガソリン料金に補助金を出し、国民の苦境を和らげるべく注力しています。しかし、電気料金を値上げして、ほかの補助金等で対処したほうが、むしろメリットは大きいといえます。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

電力料金やガソリン料金に「補助金」を出すより…

電力料金やガソリン料金が大幅に値上がりして国民生活に悪影響を及ぼしていることから、政府は電力料金やガソリン料金に補助金を出し、国民生活の苦境を和らげようとしています。

 

状況をたとえるなら、アラブの王様が日本国民に増税をしていることで日本国民の生活が悪化しているようなものであり、なんとか悪影響を和らげたいという政府の姿勢は理解できます。

 

しかし、そうであれば、ほかの手段を用いるべきだと思います。所得税の減税でもいいですし、社会保険料の引き下げでもいいでしょう。年金保険料や健康保険料を一時的に引き下げると、年金や医療費の支払いに支障が生じかねませんから、その分は税金で穴埋めする必要がありますが、電気料金等の補助をやめて、その分の資金を回せばいいのです。

 

あるいは「防衛費増額や少子化対策で増税を予定していたが、それを先送りする」でもいいでしょう。「原油価格が下がったら、1年後に増税する」といったことを決めておけばいいのです。

せっかく、原油の輸入量を減らすチャンスかもしれないのに

原油価格が高騰したことでガソリンも電気も値上がりしているわけですから、人々が「電気もガソリンも高いから買わない。でも、所得税が下がったから飲みに行こう」といった行動をとるならば、アラブの王様に支払う代金が減り、地球温暖化のペースが落ち、飲み屋が繁盛して景気がよくなるでしょう。

 

しかし、政府が補助金を出してしまうと、原油輸入量は減らず、アラブの王様に巨額の代金を支払うだけで、地球温暖化は進み、飲み屋も繁盛せず、日本の景気はよくなりません。

 

せっかく原油の輸入量を減らすチャンスなのに、それをみすみす逃しているのが現在の補助金なのです。

 

長期的にみても、電気料金等への補助金は好ましくない影響を与えかねません。人々が「政府は将来原油価格が上がった時も補助金を出してくれるだろう」と思うようになると、太陽光パネルを設置するインセンティブを持たなくなってしまうからです。

 

「原油価格が上がると電気料金が上がる。将来も原油価格が上がるかもしれないから、太陽光パネルを設置した方が安心だ」と人々が思うほうが、再生可能エネルギーの利用率が高まるので好ましいといえるでしょう。

消費減税は避けるべき!…その理由とは

所得税を減税すると、高額所得者が大きなメリットを受けます。これをどう考えるかは、難しい問題です。高額所得者は電気もガソリンも多く使うだろうから、所得税が大幅に減るべきだ、ということならばそれでもいいですが、「年金保険料を一律で3万円減らす」といった補助金の出し方であれば、生活に困っていて電気やガソリンをそれほど使っていない人に対する支援が手厚くなります。どちらを選ぶかは、政治の判断でしょう。

 

「人々の生活を助けたい」というと、「消費税率を引き下げてほしい」という要望が出るかもしれませんが、これは避けたいと思います。消費税率を一時的に引き下げて、原油価格が下がったら消費税率を元に戻す、ということだと、「引き下げ前の買い控え」「引き下げ後の反動増」、「引き上げ前の買い急ぎ」「引き上げ後の反動減」という不必要な景気変動が4回も発生することになるからです。

節電要請するなら「電力料金の値上げ」もやむなし

今年の夏も電力不足が予想され、一部地域では節電要請がなされるかもしれないと伝えられています。そうであれば、値上げはやむをえないでしょう。

 

人々に「皆のために我慢してほしい」と頼むこともときには重要ですが、多くの場合、経済的なインセンティブを与えるほうが人々は動くからです。加えて「自分はガマンしたのに隣人はガマンしなかった!」といった不満を持つ人が増える心配もありませんから。

 

夏期電力料金を大幅に値上げすれば、電力逼迫時の電力使用量を抑えることができるでしょう。その分は、上記のように所得税や社会保険料の一時的な引き下げなどで補うべきだと筆者は考えています。

 

しかし、そうでなくても「夏の電力料金を値上げして、秋の電力料金はその分だけ安くする」ということでも次善の策としては有効でしょう。「原油の輸入量を減らす」等々の目的は達せられないかもしれませんが、電力が余っている時期の需要を増やし、足りない時期の需要を減らすことができるなら安心ですし、発電所をピーク時の需要に合わせて作る必要があることを考えた場合、長期的にみれば、ピーク時の需要を抑えることが発電所の建設を不要にするかもしれないからです。

 

以下は余談ですが、電力会社によって電力の逼迫度合いが異なるのなら、電力会社間での電力の融通をおこなってほしいですし、そのために送電線が必要なら、ぜひとも送電線を建設してほしいですね。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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