(写真はイメージです/PIXTA)

経済産業省は5月26日にガソリン価格等の上昇抑制策である「燃料油価格激変緩和事業」で支給している補助金、いわゆる「ガソリン補助金」について、6月以降段階的に縮小して9月末で一旦終了させる方針を公表しました。それに伴い、ガソリン価格はどのように推移していくのでしょうか。ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏による考察です。

2―ガソリン価格大幅上昇の場合は政治的判断に

以上、原油価格の今後の展開別にいくつかのパターンについて補助後のガソリン価格を試算してみたが、今回の変更の最大のポイントは「ガソリン価格(補助後)に上昇余地が生まれた」ことである。5月までの枠組みには強力な価格押し下げ効果があり、原油価格が余程高騰しない限りはガソリン価格(補助後)も殆ど上昇しない構造となっていた。今後はメイン部分の補助率が引き下げられることで、ガソリン価格(補助後)の上昇圧力が高まっていくことになる。

 

ただし、公表資料には「上記の⾒直しに際しては、原油価格の動向を⾒極めながら柔軟に対応する」との但し書きが付記されている。政府としては原油価格が下落するか円高が進んでソフトランディングできることを期待していると考えられるが、仮にガソリン価格(補助後)が大きく上昇していく場合には、政治的判断によって抑制効果が高められたり、延長されたりする可能性もある。

 

実際、ガソリン価格上昇に対する家計(=有権者)の反発は強く、一昨年もガソリン価格上昇を受けて政権にその抑制策を求める声が強まったことが、ガソリン補助金導入を後押しした可能性が高い。

 

確かに、地方ではガソリン価格上昇による家計への影響が大きい。世帯当たりの一年間のガソリン支出について県庁所在地別に見ると、最大の山口市ではほぼ10万円と東京23区の5倍超に達する(図表7)。公共交通機関が乏しい地域では生活の足として自動車に頼らざるを得ないためだ。県庁所在地からさらに郊外に行けばなおさらだろう。外出をする以上、ガソリン消費を大幅に減らすことも難しい。グレードが多段階で設定されているわけではないため、グレードを落とすことで節約することもできない。

 

【図表7】
【図表7】

 

また、ガソリンは通常、数十リットル分をまとめて給油するため、一度の支出が数千円単位となることも負担感を感じる一つの要因になっていると考えられる。

 

地方は一票の格差を背景として、人口の割に政治家を送り込む力が強いこともあり、政権として無下にはできないという面もあるかもしれない。実際、ガソリン補助金を含む「燃料油価格激変緩和事業」には、これまで6.2兆円もの予算が投入されている。

 

ガソリンの負担軽減をどう考えるかは難しい問題だ。今回のようなガソリンへの補助金については、市場の価格メカニズムを歪め、化石燃料の消費を促し、再生可能エネルギーへの移行意欲を損ねるほか、補助金の小売価格への反映度合いが不透明など、様々な問題が指摘されている。多額の予算を要し、出口が難しいという問題もあるだろう。一方で、既述の通り、地方の家計にとってガソリン高の負担は重く、景気の重荷となるのも事実だ。企業でも運送業などの負担は格別に重くなる。従って、今後の負担軽減策を考える上では、今回の補助金制度の検証を通じて改めてメリット・デメリットを整理して、支給の有り方を検討する姿勢が求められる。

 

また、これに関連して、ガソリン税制にも課題があると考えられる。現在、ガソリン1リットル当たり、ガソリン税が53.8円かかっており、このうち旧暫定税率にあたる25.1円も特例税率に名を変えて長期にわたって実質的に維持されている。また、ガソリンには別途消費税(直近で15.3円)や石油石炭税(2.04円)、地球温暖化対策税(0.74円)といった様々な税金がかかっている。結果的に、嗜好品ではない生活必需品としては極めて高い税率になっている。家計・企業の負担感や政策目的を踏まえ、最適なガソリン税制の在り方を改めて検討する必要性が高まっているのではなかろうか。

※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年5月24日に公開したレポートを転載したものです。

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