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中国が「台湾侵略」に向けて準備していること
井上 中国が台湾有事を念頭において、露宇戦争の教訓を真剣に分析していることは明白です。私としては、注目している2点について説明します。
まず、大活躍しているスターリンク衛星に関してです。
中国人民解放軍戦略支援部隊の隷下にある北京追跡通信技術研究所のレイ・ユアンゼン研究員が、スターリンク衛星通信網の監視・破壊手段の必要性を主張しています。
米国のUAVおよびステルス機が、スターリンク経由の通信により、現状の100倍のデータ通信速度を達成すると予想して、中国軍もこの衛星への新たな対抗手段を開発すべきだと述べています。台湾有事を考えれば、海軍・空軍の作戦を効果的に遂行するうえでも宇宙での戦いは重要となります。
2点目は、UAVとC―UAV（対UAV）の戦いの重要性についてです。
露宇戦争で、多種多様なUAVが投入され、警戒監視、情報収集、火力の誘導、防空網制圧、航空阻止、近接航空支援、兵站施設や指揮所への攻撃、水上艦艇や離島への攻撃等あらゆる戦闘で成果を上げています。
他方、C―UAVの組織的な運用は、多くのUAVを撃破して、UAVによる攻撃を抑制し、被害を限定化しています。
台湾軍は、最近、金門島周辺に飛来した中国UAVを初めて威嚇射撃して追い払っていますが、今後、UAVの飛来は常態化することも考えられます。台湾有事においては、UAVとC-UAVの戦いが、初期作戦の成否に重大な影響を及ぼすことになるでしょう。
佐々木 渡部さんが全般について述べられましたので、私は、中国が露宇戦争から学んだと思われる教訓をとくに情報戦・サイバー戦を中心に列挙したいと思います。
・情報戦の優位だけでは「台湾併合」は不可能だということ。情報戦の優位で成功した、2014年のクリミア併合のようにはいかない。ファクトチェックや通信インフラの強靱化、衛星コンステレーションの利用などで、以前ほど情報戦（影響工作、認知戦など）は企図どおりにはいかない。
・攻撃される側の情報発信を止めることはできない。衛星コンステレーションの利用、米国による「ハント・フォワード作戦」などにより、インターネットを通じた情報発信は担保されるからだ。それに対処するためには「衛星コンステレーション」を無力化する方策を追求する必要があるということ。
・攻撃される側としては、情報戦の中心となるようなデータセンターや、重要な情報資産を海外に退避させておくことが重要であり、攻撃側としては、それへの対処の必要性がある。
・国際社会が一体となって被害国を支援できる体制を構築できるか、一体となって制裁できるかがカギになってくるということ。そのため、それを実現させないための国際的な情報工作が必要である。
・国際社会で味方（理解国、制裁不参加国、支援国など）を増やすための情報工作が必要であるということ。
そのほか、情報戦以外でどうしても付言しておきたいのは、「戦術核の考え方（通常戦力の延長線上としての位置づけ）」です。
ロシアが採用する「Escalate to de-escalation戦略（事態を好転させるため自らエスカレートさせ、相手のそれ以上のエスカレーションを抑止する戦略）」を適用することが可能であるということを中国は学んでしまったのではないかということです。
要するに核の脅しをかければ、民主主義諸国は腰が引けてしまう可能性があるということです。
