「解雇しない」のなら「直接労務費」の削減はできない
製品Xを外注すれば、製品Xの製造に携わっていた人たちはやることがなくなりますから、他の仕事をやることになるでしょう。場合によっては他部署に異動ということになるかもしれません。
異動ということになれば、その人たちの労務費は異動先の部署に計上されますから、従来の部署からはなくなります。従来の部門長の管理責任からも外れますので、部門長の立場としてもその人たちの労務費はなくなるように見えるでしょう。
しかし、異動しても、労務費の発生場所が変わるだけで、全社的に見れば労務費はなくなりません。社長目線で見れば労務費は何も変わらないのです。
「労務費がなくなる」と言いたいのであれば、「解雇」を前提にする必要があります。
コストを考えるときには、何が「コスト・ドライバー」かを考えることが重要です。コスト・ドライバーとは、コストの発生源のことです。
直接材料費のコスト・ドライバーは「製造量」です。ですから、外注によって社内での製造量がゼロになれば、直接材料費はなくなります。
一方、直接労務費のコスト・ドライバーは、「その人を雇用している事実」です。ですから、直接労務費はその人を解雇しない限りなくならないのです。
したがって、答えは前提によって変わります。
製品Xを製造していた人たちを解雇しないのであれば、外注によって削減される1個当たりの費用は直接材料費の60円だけです。外注すると1個当たり70円かかるので、コスト削減にはなりません。
解雇するのならば、外注によって削減される1個当たりの費用は直接材料費の60円と直接労務費の30円の合計90円ですから、外注によってコスト削減となります。
ここで重要なのは前提と結論の整合性です。製品Xを製造していた人たちを解雇せず、異動させるという前提では、コスト削減という結論にはなりません。
「直接費」「間接費」という言葉に惑わされてはいけない
「外注によって直接労務費が削減される」と考えた人の中には、直接労務費の「直接」という言葉に惑わされた人がいるかもしれません。
「直接労務費ということは、製品Xに対して直接的に発生しているということだろうから、製品Xの製造をやめればその労務費はなくなる」と考えてしまうのです。
こう考えるのは、直接費と変動費を混同しているからです。直接費と変動費は似て非なるものです。