“リーマン・ショック再来”の声も…今後の展開は
――これからも金融危機への不安はくすぶるのでしょうか?
荒磯「リーマン・ショックの再来を心配する声はあります。たしかに似た雰囲気もあるのですが、よく分析していくと、少し違う面が見えてきます。危機が起きるときには、“特定のセクターにいったんお金が集中する”というパターンがあります。その後に、たまった債務が一気に崩れていくプロセスが典型例です」
――では、今回はどうなのでしょうか?
荒磯「[図表2]は、米国の経済主体別に債務の伸びを示したものです。1990年代から2000年初頭にかけたテックバブルでは、債務が金融機関に集中しています。
それが崩れたことで米国では銀行の再編が進み、メガバンクが誕生しました。リーマン・ショックでは、サブプライムローンなどの債務を抱える個人や証券化商品を大量に組成や保有していた投資銀行の債務が目立ちましたが、リーマン・ショック以降は金融機関の債務は減っています。厳しい金融規制が課せられ、銀行の財務は全体的には健全化しているのです。一方で、コロナ対策が理由となって政府部門の借金が膨らんでいます。
――今回の一連の騒動では、信用不安は急速に波及していくのだと実感しました。金融危機を防ぐため、政府当局にはスピード感を持って正しく対処してもらいたいものです。うまく対応していけそうでしょうか?
荒磯「政府部門には多額の債務があり、リーマン・ショック時と比べ財政出動や税金投入といった対策が講じにくい点はあるでしょう。ただ、その点は楽観的にみています。これまでの危機を踏まえて、なにをするべきかという対応策をあらかじめ想定している印象です。
シリコンバレー銀行で破綻の話が出た際に、預金の全額保護や銀行向けの緊急貸し出しを実施したのも、その表れです」
――そもそも、米国の利上げが要因だったのであれば、今後は打ち止めに動いていくのでしょうか。
荒磯「利上げ継続という選択肢は難しくなってきたと思っています。なぜなら、今回問題が起きたのが銀行セクターだったためです。銀行が財務の健全性を維持しようとして、今後の貸し出しを渋ると、経済全体にお金が回らなくなってしまいます。
おのずと景気過熱へのブレーキが踏まれていくと思いますので、中央銀行が無理して利上げをしなくてもよい環境になってきたのではないでしょうか」