財務省の行動基準は「歳出を1円でも少なくすること」
財務省の行動基準は、「安定的に1円でも多くの税収を得る」ことと「歳出を1円でも少なくすること」だが、「継続的に発生する支出」には、とてつもない抵抗を示す。だから、ベーシックインカムの導入などは最も嫌がる。
それでも政治家からの圧力でやらざるを得なくなった場合には、単年度負担で終わるように画策する。その結果、せっかくの経済対策が効果を生まなくなってしまう。
政府は、2022年10月28日に家庭や企業の電気料金の負担緩和策などを盛り込んだ総合経済対策を閣議決定した。岸田総理は、「財政支出が39兆円、事業規模は72兆円で、GDPを4.6%押し上げる。また、電気代の2割引き下げやガソリン価格の抑制などにより、2023年にかけて消費者物価を1.2%以上引き下げていく」と強調した。
第2次補正予算に盛り込まれる一般会計の財政負担は29兆円だ。自民党は当初から昨年を超える財政規模の補正予算を主張し、どうしても30兆円台に乗せることを避けたかった財務省との妥協の産物が29兆円という数字だ。ただ第2次補正予算のうち4.7兆円は予備費で、総額の攻防ばかりが目立つ決定だった。
問題は予算の中身だ。岸田総理は電気やガス料金などの負担抑制で、標準的な世帯で、総額4万5,000円の負担減になるとしている。たとえば電気代は2割引き下げるとしており、ロシアのウクライナ侵攻前の水準に戻すとしている。
もちろん家計の恩恵は大きいのだが、電気代をそのままにしたら省エネは進まなくなる。
温室効果ガス世界資料センターによると、温室効果ガスが大気中に占める割合は、2021年、世界平均で観測史上最多を記録している。地球を守ろうと考えたら、省エネは差し迫った課題なのだ。
それでは、経済対策は、どうすればよかったのか。私は消費税率の引き下げが最適だったのではないかと考えている。
補正予算の29兆円という金額は、ちょうど1年間消費税をゼロにできる金額だ。もし、今回の経済対策でそれを実行できたら、日本経済の復活に向けて大きな効果を発揮することができただろう。
期間限定で消費税がゼロということになれば、その期間に住宅とか自動車とか家具などの金額の張る商品を購入しようとする人が大きく増加する。
物価高だけでなく、コロナ禍で厳しい経営を余儀なくされている中小企業の経営にとっても大きな支援となる。中小企業は、十分な消費税の転嫁ができていないところが多いからだ。
さらに消費税を撤廃すれば、消費者物価はすぐに10%下落する。物価高対策としては、これ以上の効果がある対策はないだろう。
消費税率の引き下げは、省エネ努力を阻害しない。あらゆる意味で、小出しの対策を積み重ねるより、ずっと有効なのだ。消費税減税は、絵空事ではない。
コロナ禍以降、欧州各国は付加価値税減税を実行していて、ドイツは19%から16%に、イギリスは20%から5%へと税率を大幅に引き下げた。
ところが岸田総理は、国会で野党の質問に答えて、「消費税(率)を下げる考えはない」と明確に消費税減税を否定した。なぜ日本だけが消費税を下げられないのか。理由は2つあると思う。
1つは、もちろん財務省だ。財務省にとって、消費税(率)は上げるものであって、下げるものではない。実際、2022年10月26日に開かれた政府税制調査会でも、複数の委員から「消費税率をアップすべき」との意見が相次いでいるのだ。
もう1つの理由は、政治的な理由だ。小出しの経済対策を数多く積み重ねれば、そこには必ず利権がついてくる。ところが消費税率を引き下げても、そこには何の利権も生まれないのだ。
経済や国民生活が危機的状況に陥るなかでも、利権のことしか考えない。そんなことをしていたら、日本経済は沈没するだけだ。