台湾メディアで加速する“中国を褒めたたえる報道”
一方、政界では、中国当局から資金を得て台湾統一を主張する政治団体「中華統一促進党」が、反「台湾独立」運動や民進党の蔡英文政権への抗議活動に人を動員していた疑いが持たれている。同党は、八田與一の銅像を破壊した反日団体としても知られており、中国は台湾を併合するために、政界をターゲットにした政治工作にも力を入れている。
また、2期8年にわたった民進党・陳水扁政権の後、国民党の馬英九が総統に就任した頃から、台湾のマスメディアの報道・言論空間のなかに中国の影響力が浸透するようになっている。
日本台湾学会の川上桃子氏の論説「台湾マスメディアにおける中国の影響力の浸透メカニズム」(日本台湾学会報第十七号(2015.9))によると、中国の浸透メカニズムの浸透経路は下記の四つに代表されるとのことだ。
①中国で事業を展開ないしは展開を計画している台湾の事業家たちによる、中国政府からの庇護や支持を取り付けるための台湾マスメディアの買収と報道・言論内容への介入
②中国の各級政府による台湾での「報道の買い付け」
③台湾テレビ局の番組の売買や番組制作面における中国の省・市傘下のテレビ局との提携等の強化→中国側の政治的意図の浸透
④中国政府と台湾メディア企業の直接的なコミュニケーションの日常化→メディアによるニュース処理プロセスのなかへの中国の影響力の侵入
このようにして、台湾の新聞やテレビにおいて、「中国を褒めたたえる報道」が増える一方で、中国政府にマイナスとなるニュースを意図的に小さく扱ったり、無視したりする傾向が現れている。
また、中国とドラマ番組の商談を進めていた台湾のテレビ局が、中国側からの示唆を受けて中国に批判的なトークショー番組を打ち切るといった事案が起きており、台湾統一を国家目標として掲げる中国の情報戦・世論工作が、マスメディアを通じて日々台湾国民の中に浸透し、ボディーブローのように効いていくことになろう。
これと関連して、中国は、台湾に対しサイバー攻撃や偽情報キャンペーン、認知的操作などのハイブリッド戦を常態的に仕掛け、台湾政府の信用を失墜させ、民間人や軍人の士気を下げ、社会経済活動を混乱させようと目論んでいるという。
このように、中国は、敵対国家内の政治勢力や社会運動に対し指示や財政支援を行い、浸透工作や影響工作に注力している。