令和の若者が「ゆるい職場に居つく人・離職する人」で極端に分かれるワケ…学生時代の“ある経験”に決定的差

教育における個別最適化の本質③

令和の若者が「ゆるい職場に居つく人・離職する人」で極端に分かれるワケ…学生時代の“ある経験”に決定的差
(※写真はイメージです/PIXTA)

教育における個別最適化とは、どのようなものでしょうか。文科省では「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を掲げていますが、世間では、言葉のイメージから「教育における個別最適化=個別指導」という誤解が広まっているのが現状です。子どもの成長過程には「協働」と「個別最適化」のバランスが必要不可欠であり、個別最適化が行き過ぎれば自己顕示欲や利己主義に捕らわれかねません。花咲スクール代表・大坪智幸氏が、個別最適化のあるべき姿について解説します。

行き過ぎた個別最適化は「人としての修養」を妨げる

敢えて具体例は避けますが、自己顕示欲に駆られた類のニュースは増えており、大変な危機感を持っています。なぜなら、このような利己主義の横行は、歴史的に見れば、日本でも世界でも、国が滅ぶ前に起きているからです。また別のニュースでは、利己主義が行き過ぎて、先輩や上司には優しく接してほしい、ゆるい職場を希望する若年層が多いというものがありました。にわかには信じがたく、データの出処や調査対象の分母まで調べました。

 

今一度、特に発信をするSNS利用者やビジネスパーソンが学ぶべきは、渋沢栄一をはじめとする各業界の創業者たちが皆、他を想う心、利他主義から出発しており、その恩恵の下(もと)、生きていくことができているということです。彼らが現状を見たら何と言うでしょうか。現代人として頭を下げる以外に何もできません。

 

さて話を戻しまして、ゆるい職場を求める人がいる一方で、職場がゆるすぎて離職する人材がいるというニュースも目にすることができました。人生の半分を過ごす仕事を通して自己実現する、という仕事の本質を知っている方たちではないでしょうか。彼らを受け入れ、彼らの自己超越まで育てられる土壌を今すぐに企業側がつくれなければ、つまりマネジメント側が相応の学問をしていなければ、人材流出が連続し、それぞれの組織は弱体化することになり、彼らが海外での就労に活路を見出すようなことになれば、日本企業全体の弱体化へと繋がってしまう恐れがあります。

中学生は「協働と個別最適化のバランス」が特に重要

公立の中学3年生が履修する公民では、個人の自由と公共の福祉について学びます。2300年前の人物である荀子やアリストテレスは、個人と社会の関係である社会契約説について言及しており、集団や社会を認識する重要性を説いています。簡単な例ですが、このようなことすら忘れかけている、ということだと思います。

 

そして、これらを踏まえた上で性善説に立ち、自己修養が社会貢献に繋がることを理解できるのも、多感な時期に集団で過ごした経験があってこそだと、私は考えています。現代社会ではワークライフインテグレーションという考え方に類似していると言えます。平たく言えば、個人の頑張りが社会の生産性向上に繋がり、皆が豊かになるということです。修身、斉家、平天下、これは古典からの引用で、我が師匠が教授してくださったことですが、これを常に忘れず、周囲に涵養できる人間でいたいものです。

 

個別最適化の考え方を科目の教育に包含していくならば、ベースになる授業は、公立、私立、塾問わず、協働のある集団形式で、練習問題の進度や深度調整、繰り返しは個別形式(場合によってはICT機器を利用)で行い、より学びを深めたい、探究を望む場合は、ICT機器を用いて自ら学んでいくサポート、助言をしていくことが肝要です。

 

探究と言うと難しく感じられますが、例えば社会におけるその単元や技術の応用について調べる、という簡単なことでも良いと思います。そうすることで、子どもたちの頭の中でアハ体験が期待できるため、もっと自由に活発にICT機器を利用しても良いのではないでしょうか。その際は、情報の真偽を判断するためのサポートを行い、正しい方向へ導くことが求められ、こちらがやるべきことは増えますが、これも子どもたちにとっての学び、学問になります。

 

また、このようなことは家庭でもできますので、利用時の注意やリテラシーについての理解、ルール決めを行った上で、ぜひ活用してほしいと思っています。ここで活躍してくれそうなのがチャットAI技術ですが、こちらについてはもう少々、自身で使用してから、子どもたちにレクチャーしたいと考えています。留意すべき点を理解して使用することができれば、非常に優れた教材になり得ます。

 

ちなみにこの文章はチャットAIを使用していません。すでにAIが一部の新聞記事を担当し、ニュースを読み上げる時代です、近い将来、似たようなものはAIに簡単につくられてしまうと予想しています。AIが最も優れた教育者になる、というのはあながち都市伝説では済まない話かもしれません(しかし、現状の延長上に技術が存在するならば、人間にも活路を見出すことができます。哲学的な話になりますので、またの機会に)。

今、改めて「人として必要な教育」を考えるべき

さて、子どもたちのその後、社会での活躍、そこまで想定すると、教える側の自己修養が鍵になることに加え、物理的、時間的な制約が出てきます。そこで、手っ取り早い解決策として浮かぶのは、協働を外した個別指導で管理を徹底していくことです。ですが、社会的な動物である人間の成長には相互刺激が重要であり、それにより探究心が育まれることが多々あります。また、人と関わることで実践的な読解力も身に付く、私たちはそうしてきたと思います。子どもたちにも、その機会があることを願っています。

 

私たちの身の回りにあるモノは驚愕のスピードで進化を続けていますが、人間それ自体の進化の度合いに、誤魔化しやバイアスなしで向き合うべき時が来ているのではないでしょうか。

 

 

大坪 智幸

株式会社花咲スクール 代表取締役、本部校教室長

 

郵便局員、新車営業の経験を通し社会の矛盾に気付き、教育業界に転身。塾講師、通信制高校教師を同時にこなす中、肺炎を患い生死をさまよう。その後、大手学習塾にて講師を務め、花咲スクールを開校。一人一人に真摯に向き合い、自主性を引き出す教育方針に定評があり、口コミや紹介での入塾者が後を絶たない。最近は、居合道と大学院でアップデート中。

※本連載は、花咲スクール代表・大坪智幸氏による書下ろしです。

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