「教育における個別最適化=個別指導」は明らかな誤解…「SDGs学習」こそ「個別最適化」の良例といえる納得理由

教育における個別最適化の本質①

「教育における個別最適化=個別指導」は明らかな誤解…「SDGs学習」こそ「個別最適化」の良例といえる納得理由
(※写真はイメージです/PIXTA)

教育における「個別最適化」とは、個別指導にフォーカスするものではなく、学びにおいて個別指導を最適とするものでもありません。教育における個別最適化の「本質」とはどのようなものか、「あるべき姿」とはどのようなものか。花咲スクール代表・大坪智幸氏が、学校管理職と交わした激論を交えて解説します。

ますます注目される「個別最適化」だが…

昨今、個別最適化という言葉を目にする機会が多くなってきた、と感じるのは私だけではないと思います。この言葉は、学問領域、業種問わず、仕事の進め方やキャリアアップにおいても、使用されるようになってきています。もちろん、教育という分野も例外ではなく、専門誌、ニュースでは積極的に取り上げられています。

 

では、果たして、個別最適化は、教育において文字通り「最適」解となるのか。つい先日、公立学校のとある管理職の方と激論を交わす機会がありましたので、その内容も交え、考えてみたいと思います。

「個別最適化」の“個別”が意味するもの

はじめに、教育における個別最適化と聞いて、個別指導を思い浮かべる方が多いというのは、言葉のイメージからして自然なことです。言葉が独り歩きし、立場や都合に合わせて解釈され、さらにそれぞれの注釈が加わりアウトプットされたため、「じゃあ個別での学びが最適だね」ということになっているのだと推量します。

 

ですが、本質的な目的からすると、これは、大きな間違いです。というのも、文科省では「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を掲げており、経産省はEdTechとSTEAM(※)についての資料内で、居場所や学年や時間の制約を必ずしも受けず、「自分の個人目標と選択をもとに」「多様な内容を」「多様なペースで」「個別に、時に協働的に」「能動的に」学ぶ、と提言しています。つまり、個別指導にフォーカスしているのでも、学びにおいて個別指導が最適だとしているのでもないことが看取されます。

 

※EdTech…教育〈Education〉とテクノロジー〈Technology〉からなる造語。

※STEAM…文理の知識を総動員し、課題解決や価値創造のための試行錯誤を行う学び。Science, Technology, Engineering, Arts and Mathematicsの頭文字をとって「STEAM」。

 

日々、子どもたちと接する立場から、この混同は、注意が必要であると思っています。科目の学習という範囲に絞ってお話しすると、集団による教育において、導く側に求められる「誰一人取り残すことのない」十分な配慮とは、学習速度、理解度に差が出ることを前提に当該学習時間を組み立て、想定を繰り返しておくということです。

 

さらに期するのは、「落ちこぼれ」「吹きこぼれ」になる生徒が出てきてしまうことを防ぐ方法や手段を熟考し、彼らの手が止まってしまうことがないようにする、そして、全員に成長マインドを持たせ、コンピテンシーを伸ばしていく栄養源となる時間を提供し、これらに加え、生徒自身が深堀していく時間を予め組み込んでおく、ということです。それが達成できるかは、こちらの導き方と準備の精度に掛かっています。

 

しかしながら、目的、目標は重々理解していても、やはり一人の人間では限界があるのは否定できません。この境界を突破していくためのシステム部分が、入試や習熟度別クラスであり、広義での個別最適化ではないでしょうか。また、文房具の一つとして導入されたICT機器やソフトウェアが、日々の学習面においての個別最適化サポートツールとして非常に優れた性能を持っています。

 

せっかく導入されたこのツールを、画一的かつ画面上で完了する簡単な宿題を提示し、実施・未実施を管理側が容易に把握でき、内申点付与の際に参考にする根拠として使用されている現状を嘆く先生がいることに、私は心から安心しました。そのような使用、利用方法は想定しておらず、誰も提唱していないそうです。

SDGs学習が良例…個別最適化の「あるべき姿」

先生とのやり取りの中で見えてきたのは、「個別最適化」の“個別”とは、生徒ひとりひとりによる、アクティブラーニングや先に述べた学習速度・理解度に応じた効率的な学びを指しており、個別の指導、フォローを意味しているのではないということです。

 

すなわち、集団・協働と個別のバランス取りをしながら、探究心や読解力の育成を目指していく、これが「あるべき姿」ということです。集団・協働と個別のバランスについては、お互い首肯する以外になかったSDGs系の課題解決を学ぶ授業が、わかりやすい例ではないかと思います。

 

まず、集団でSDGsの概要、世界が抱える諸問題、日本や地域に転換して思考する方法を学びます。また、調査方法、根拠の見出し方についても、パターン学習ができるため、集団が望ましい形式です。その後、課題を自身で選択、調査する段階へ進み、他者へ説明するところまで想像しながら行うことで、単なる個別学習では身に付かない視点を学ぶことができます。次にチームで意見をまとめていく協働に移行するのですが、この際も大きな学びがあります。

 

例えば、「Aさんはこのような視点がある、参考にしよう」、「Bさんと私は同じ視点だ。だが、私の方をベースにした方がチームとしてはうまくいく。Bさんと協働し折り合いをつけよう」、などです。このような場合、初めのうちはサポートが必要かもしれません。ですが、事前に集団形式で、ネガティブフィードバックは自身の成長にとって一番の糧になる、と伝えられていれば特段問題はないはずです(若人よ子路であれ、です)。そしてまた不足分を個別に探究し、持ち寄る、これを繰り返し、最終的な協働の後、プレゼンテーション形式で発表を行い、また他のチームの成果物一辺倒ではなく、課程に着目し、良い点や改善点を個別に学習し、更なる成長へと繋げていく、これが協働的な個別最適化であると、先生と完全に一致した結論でした。

 

集団・協働での授業、個別での探究、協働による他者の視点の導入や自分を客観視する機会、集団でのフォローアップ、これを教科の学習で応用するには、タイムスケジュールに注意し、タームそれぞれの言語化を行い、置き換えていくことができれば実現可能となります。当該学年で履修すべきカリキュラム進度が悩みの種となりますが、現在、その先生と協力してモデル授業の構築を目指し日々試行錯誤しています。

 

 

大坪 智幸

株式会社花咲スクール 代表取締役、本部校教室長

 

郵便局員、新車営業の経験を通し社会の矛盾に気付き、教育業界に転身。塾講師、通信制高校教師を同時にこなす中、肺炎を患い生死をさまよう。その後、大手学習塾にて講師を務め、花咲スクールを開校。一人一人に真摯に向き合い、自主性を引き出す教育方針に定評があり、口コミや紹介での入塾者が後を絶たない。最近は、居合道と大学院でアップデート中。

※本連載は、花咲スクール代表・大坪智幸氏による書下ろしです。

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