「10代のSNS炎上」多発も“個別指導ブームの産物”か…誤解されつづける「教育の個別最適化」の末路

教育における個別最適化の本質②

「10代のSNS炎上」多発も“個別指導ブームの産物”か…誤解されつづける「教育の個別最適化」の末路
(※写真はイメージです/PIXTA)

教育における「個別最適化」とは、個別指導にフォーカスするものではなく、学びにおいて個別指導を最適とするものでもありません。文科省では「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を掲げており、経産省は、居場所や学年や時間の制約を必ずしも受けず、「自分の個人目標と選択をもとに」「多様な内容を」「多様なペースで」「個別に、時に協働的に」「能動的に」学ぶ、と提言しています。個別最適化の「あるべき姿」とはどのようなものか。花咲スクール代表・大坪智幸氏が解説します。

子どもには「個別の時間」が必要な時期もあるが…

教育における協働的な個別最適化において、バランスという面では、目的や年齢により、集団と個別の相対時間を調整していく必要があることは否定できません。つまり、集団・協働に重きを置くべき時期もあれば、個別に重きを置くべき時期もある、ということです。

 

小学生の学習において「あるべき姿」は、思考力を育むことです。思考のステップを涵養する、ものの捉え方や視点の多さを学ぶ、解決策を導き出すためのヒントを探していく、またその過程を客観的に検証・学習する練習をすること、と言えます。これらを学習する際、クラス全体のスピードよりも個人が頭を動かすこと、言い換えれば「なぜなぜなぜ」と、思考を巡らせる時間を設けることが重要です。

 

ですが、他人と生活する以上、仕事をする以上、制約や締切があります。その練習を兼ねて、時間内で取り組んでいく、皆で勉強することは欠かせません。導く側として、時間と個人の思考のバランス取りは難しいところですが、現代の我々にはICT機器があります。授業内課題や宿題の出し方をレベル別、理想は個人ごとに検討し提示することができれば、それぞれが一生懸命思考する機会を優先することができます。

 

このように絶対的な学習速度に大きな差が生まれる小学生と、科目や難易度が細分化される高校生以上には個別の時間を多く設けることが求められます。余談ですが、高校はそれぞれ採用している教科書やその難易度はバラバラです。定期テストに主眼を置いた塾や予備校で集団授業を学生が行うところがあるようですが、どのように進めているのか興味が尽きません。eラーニング形式でなければ対応不能なはずです。恥ずかしながら我が業界の闇の部分です。

「協働」と「個別最適化」のバランスが問われる時期も

さて前述の通り、小学生、高校生には、個別での学習が非常に有効であると考えられますが、中学生には、協働での学びを優先した方が良い、と考える方が多いのではないでしょうか。というのも、みなさんもご承知の通り、中学生の年頃は、遥か昔から「その人の精神内で、自分自身という存在と他者という存在に気付き始める時期である」と言われており、かつ「仲間意識が芽生える反面、他者との交流に消極的になる場合もある」という微妙な時期であり、最もバランスが大切になるためです。

 

集団で、あるべき姿を共有する。これは、組織や企業であれば目的や意識、ビジョンの共有、そのための目標、手順、方法の確認、これらの達成のため、個人での学習や業務(組織や企業)、協働での進行です。この基礎を学ぶのも中学生ぐらいの時期ではないでしょうか。ここでのバランスを崩すと余波がいずれ大きな渦となってしまう可能性があります。バランスがあって初めて最適化ということです。

 

そして、人としての自己修養においても、協働と個別最適化のバランスは必要不可欠です。この感覚を逸したと感じる労働市場や自己顕示欲に支配された末路などのニュースが増えており、未だ理解が及ばないものが多いように感じています。これは相対的な話であるとはっきり断りを入れますが、とある指導方法の隆盛期と年代を比較すると、今後もっと増えていき、明らかな二極化をしていくことが予想されます。

「行き過ぎた個別最適化」の末路

そもそも個別最適化とは、ドン・ペパーズ、マーサ・ロジャーズにより提唱されたマーケティング戦略手法であり、個人の消費行動に対する価値創造が主目的です。この消費戦略から逆算された個人偏重主義、「自分らしく」が行き過ぎたがゆえに、特に若年層の利己主義による労働や、SNSでのトラブルへと繋がっている、というのは考え過ぎでしょうか。

 

SNSというツールの登場により、マズローが提唱した人間の欲求5段階説のうちの「承認欲求」まで誰もが簡単に、かつ素早く到達できるようになっています。これは本来歓迎すべきことです。生理的、安全、社会的欲求に不安を感じるのであれば、その上にある承認欲求には辿り着けないからです。次のステップは自己実現欲求なのですが、そこへは向かわず、自己顕示欲に駆られていることが問題であり、先に進めず足踏みをしている状態であると言えます。これでは自己超越、利他主義などは遥か先、300万光年離れた位置にあることになります。

 

 

大坪 智幸

株式会社花咲スクール 代表取締役、本部校教室長

 

郵便局員、新車営業の経験を通し社会の矛盾に気付き、教育業界に転身。塾講師、通信制高校教師を同時にこなす中、肺炎を患い生死をさまよう。その後、大手学習塾にて講師を務め、花咲スクールを開校。一人一人に真摯に向き合い、自主性を引き出す教育方針に定評があり、口コミや紹介での入塾者が後を絶たない。最近は、居合道と大学院でアップデート中。

※本連載は、花咲スクール代表・大坪智幸氏による書下ろしです。

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