(※写真はイメージです/PIXTA)

先行きの見えない時代に突入し、保護者たちの教育熱が上昇。いまや小学校低学年からの塾通いも珍しくありません。しかし、これからの時代は、教科書的な学力を定着させて、受験に成功させるだけでは不十分です。社会を生き抜く力を身に付けさせるには、どんな教育が必要なのでしょうか? 花咲スクール代表・大坪智幸氏が、「全力で向き合う指導法」をテーマに解説します。

これからの時代、「塾に求められる教育」とは

2020年から続くこのような状況において、“学びの機会を保障する”等は、今は昔。オンライン会議システムに代表される様々なツールを用い、どうしたら子どもたちの未来が広がっていくのか、既存の教育システムの先へ行くにはどうしたらよいかを考える時期が来ています。私たち民間教育機関は、少なくとも2020年の2月から事あるごとにこの話題に触れ、文字通り真剣勝負、改善の繰り返しで取り組んできました。機会の保障ではもはや不足、格差は広がる一方となります。

 

何か新しいものがトップダウンで導入されると、手段は目的化されます。そのソフトを、その機械を使うことが大切なのです。それを用いて何をどれくらい達成するのか、KPIなどという概念は見当たりません。それはどこでも同じこととしまして、1人1端末の導入から運用、実際の使用についてを反面教師とし、我々民間教育が本質を提供しなければこの国に未来はないと大変な危機感を抱いています。ところで、私たちの地域では、学習塾職員はエッセンシャルワーカーと位置付けられ、ワクチンの優先接種対象とされてきました。いつの間にか必要不可欠な存在と認められていると、にわかに嬉しい気持ちもあり、新たな責任感が芽生えたのをよく覚えています。

 

さて、今回頂戴したテーマ「全力で向き合う指導法」について、例として私たちの取り組みをご紹介したいと思います。まず、「言い訳じみた仕事をしない、妥協しない、生徒の今だけを見ない、嫌われるのを恐れない、メリットのない嘘をつかない」というのは、どのような職種でも共通の大前提であることは言うまでもありません。

 

私は運良く、様々な教室を見学する機会を頂戴し、その中で気付いたことがあります。良い教室には常識とバランス感覚がある、ということです。利益最優先の下では、一時流行っても五年、十年という単位や地域貢献の視点が欠けているため、必ず衰退します。経営という立場で意見すれば、短期・中期・長期事業計画、同継続計画、同継続マネジメントは策定されているのか疑問です。この仕事は、自身の一挙手一投足がBCPで想定される災害になりうるということを忘れてはいけません。

 

民間教育とは、その地域にとってインフラと同等の価値と責任があると私は考えています。武道の中には、最初に習う型が最後に習う最強の型であるという流派があります。結局、基本の徹底こそ理想実現へ一番の近道となります。私たちに何ができるのか、何を子どもたちに提供するのか、改めて考えなければなりません。

「なぜ」「ストーリー」「メタ認知」が真の学力を育む

念頭に置かなければならないのは、政府が進めている人の能力を拡張する計画と、某メーカーによる未来都市計画です。それぞれホームページ上で詳細が公開されています。今後AI・ロボットの台頭により私たちの生活は変化していきますが、決して悲観することなくその中で生まれる新しい環境、仕事に適応もしくは創造できる人材を育てることが私たちの目的だと考えています。

 

私たちは「なぜ」を大切に授業を展開します。各教科、単元により様々ですが、あらゆる物事には理由があるということを重視します。伝え方が問題になると思いますが、言葉すべてに役割と繋がりを持たせ、「なぜ」今それを学ぶべきかの理解から導入し、途切れることのないストーリーを提供するようにしています。

 

本でもアニメでも映画でも、ストーリーで入ってきたものはなかなか忘れません。「なぜ」や根拠を正しく伝えることができれば、生徒たちをゾーンに導くことができ、頭の中で色彩を伴って学習することができます。つまり落語です。下手な落語は白黒、上手な落語はカラーの紙芝居、もう少し進むと色がついた映像。そして一流と呼ばれる人たちの落語は、鮮やかな色を帯び、カメラワークも入り、滑らかな臨場感あふれる映像で展開されるそうです。

 

話を戻しまして、私は、朱子学や孔子、孟子をベースとするリーダー論に基づく人材育成にも力を入れています。

 

例として実際の指導を紹介します。

 

ある日、中学生の授業で、間違いを恐れて答えを言い切れない生徒がおり、もじもじしてしまうことがありました。そのとき、私はチャンス、と思い、板書をしながら「恐れは畏れである。畏れがある人間は恥を知っている。恥を知っている人間には礼がある。礼がある人間には教養がある。君は大丈夫」と真剣に語りかけました。すると驚くほど皆が引き締まった表情でこちらの話に耳を傾け、メモを取る子まで出る状態でして、その生徒はいつもより大きな声で、すっと答えてくれました。

 

ほんの数秒、数十秒で子どもたちは変わるのです。その日、その時、その場所で(歌のようになりましたが)、皆が持っている心への理由付けを手伝い、本当はどう在りたいか答えを持っている心に全身全霊で応えていく、これも私たちに求められることだと考えています。実際の場面を通し、学問とは何のために存在するのか、自分たちは今後社会をどのようにしていきたいのか、どんどん頭を動かしていって一つの見解を簡潔に伝えるということが重要なのです。

 

同時に意識していることは、最近の教育業界の流行りで言うところの、「メタ認知」です。キーワードから連想し、パターン認識としてマクロ思考でぼんやり捉え、問題によりミクロ思考へと導く、という認知の鍛錬を普段から徹底して行うということも不可欠です。「子曰く、憤せずんば啓せず、悱せずんば発せず、一隅を挙ぐるに、三隅を以て反せずんば、則(すなわ)ち復(ふたた)びせざるなり、と」2500年前にすでに言われていることです。

 

子どもたちが初めから持っている、学びへ向かう本来の姿勢を最大限引き出す努力を教える側が徹底して貫き通すことが、今、求められていると感じています。真の学力を育むには、「良い授業、圧倒的な演習量、本人の姿勢」この三つが不可欠です。この三つを揃えるには、徳に基づく強いリーダーシップが必要なのは言うまでもありません。「一日之を暴(あたた)めて十日之を寒(ひや)さば、未だ能く生ずる者有らざるなり」家庭だけ、学校だけ、塾だけ、~だけでは難しいというのが現状です。

 

価値観の多様化は今や十人十色、ザ・個人主義の時代ですが、なぜ偉人たちの片言隻句はこのように現代の我々に突き刺さるのでしょうか。

 

 

大坪 智幸

株式会社花咲スクール 代表取締役、本部校教室長

 

郵便局員、新車営業の経験を通し社会の矛盾に気付き、教育業界に転身。塾講師、通信制高校教師を同時にこなす中、肺炎を患い生死をさまよう。その後、大手学習塾にて講師を務め、花咲スクールを開校。一人一人に真摯に向き合い、自主性を引き出す教育方針に定評があり、口コミや紹介での入塾者が後を絶たない。最近は、居合道と大学院でアップデート中。

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    ※本連載は、花咲スクール代表・大坪智幸氏による書下ろしです。

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