本連載は、経営コンサルタントとして活躍する出口知史氏の著書、『東大生が実際に学んでいる戦略思考の授業』(徳間書店)の中から一部を抜粋し、企業の経営・技術戦略に潜む落とし穴を見ていきます。

人口・市場の縮小――前例のない変化が起こっている!?

まず前提として知っておくべきこととして、企業や経営者を取り巻く環境の変化について説明します。

 

過去に学ぶということはありますが、時代とともに人間自身の能力が高くなったり低くなったりするものでもありません。だから会社の判断ミスや暴走というのは何かの能力の特性の変化によって起こるということではなく、環境の変化に順応できるか否かによって起こるものです。

 

さらにその変化というものは、企業が意思決定の過ちを起こしやすいような何かが起きているわけではなく、経営者にとってあまり経験したことがない環境に変わっていったために、それに対応できるかどうかということです。

 

大くくりでいえば、人口・市場のパイが縮んでいくという世界で見ても類がない、国家が始まって以来の変化が起こっていること。経営者であっても気を配らなければならない先が増えたこと。結果を出すまでの時間軸が短期化しがちであることが挙げられます。順を追って説明していきます。

技術力の分野でも周辺国に抜かれつつある日本

まず1点目としては、もはや小学生でもおそらく認識している話になってしまっていますが、中国ほかアジア諸国が成長を続けている一方で、相対的に日本の成長が停滞していることです。

 

中国については最近こそ成長に陰りが出てきているという話が出ていますが、GDP成長率の勢いがそがれたとはいえ、成長は続いています。日本がほぼ横ばいを続けているのとは対照的です。

 

かつては「世界の工場」といわれ、安い人件費で大量のモノを生産する拠点として台頭してきた中国でしたが、最近は国の方針もあって人件費が高騰してきました。2006年と2014年を比較すると、元(げん)ベースで2.5倍くらいになったという推計があるほどです。

 

この間に円と元の為替レートは1元が13円程度だったものが17円程度になっていますので、日本から見るとさらに約1.3倍となります。つまり3倍近いことになります(それでも2014年時点で月給は都市部でも8万~9万円程度といわれ、まだ日本よりは安いです)。

 

そのため、依然として人件費の安いインドネシア、タイ、ベトナムなどに生産工場を建てる企業が増えています。これからはミャンマーやカンボジアなども、工場の拠点としてラインナップに加わってくるでしょう。何にせよ、少々円安になったところで、そうした国々で行われている作業を日本人がやっていたら、コスト競争で耐えられるはずがありません。

 

また中国、韓国や台湾においては、組立や加工などの製造領域だけでなく、優秀な技術者が加速度的に現れてきています。

 

最近では少し下火になっていますが、少し前まではアメリカの都市部や、タイやシンガポールなどアジアの中でも比較的文化が進んでいる国では、家電や携帯電話などは韓国ブランドの「サムスン」が日本メーカーのものよりも大きな存在感を示していました。

 

著者もそうですけれど、日本で生活していると「サムスンがカッコいい」という感覚はあまりないかもしれませんが、世界市場で見たときには、むしろその日本的感覚のほうがマイナーになっているのかもしれません。

 

技術開発について日本は凌駕されつつあるどころか、一部の領域においてすでに凌駕されてしまいました。欧米からすると、市場も縮小し、高いレベルを誇っていたはずの技術力の分野においても周辺諸国に抜かれつつある日本を見る目は、このままの状況が続けば確実に厳しくなっていくでしょう。

東大生が実際に学んでいる 戦略思考の授業

東大生が実際に学んでいる 戦略思考の授業

出口 知史

徳間書店

現役東大生を対象に著者が行っている経営戦略の講義が待望の書籍化。 今年で9年連続となる人気講義には、経営者が判断を誤る背景、成果主義の弊害、新興国進出の損得、アウトソース依存による空洞化危機、危ない経営の見抜き…

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