「商人道」を活かした、付加価値としての「値上げ」
とはいっても、どこから始めたらいいのか、なにから手をつけたらいいのか、迷うところです。そこで、値上げ要因となっているコストに注目してみてはいかがでしょう。
いま企業を悩ませているのは、燃料費・原材料費の高騰です。しかし、原価高騰の原因をたどると、社会問題やその社会問題を解決するためにかかる費用だということに行きあたります。燃料費の高騰の要因は、ウクライナ戦争です。
また海水温上昇による水産物の不漁や、異常気象による農作物の不作が、仕入れ原価の上昇につながっています。その他、商品やサービスに付加価値を付けるために、人件費を含めたさまざまな費用が、いままで以上にかかっています。
つまり、自社が儲けるための値上げではなく、社会問題に対応する費用が、大きくかかるようになってきたものであり、お客様に価値あるものを提供しようと試行錯誤した結果なのです。
そう考えると、社会が劇的によくならない限り、残念ながらコストは下がりません。むしろ上がり続けると考えたほうがいいでしょう。また価値は、価格転嫁できてこそ付加価値です。単なる値上げではなく、価値に転換させる努力と工夫が必要なのです。
付加価値はどうつける?…「差別化」はもう限界、今後は「差異化」がカギ
モノのスペック・機能・性能・素材・成分・効果・効能は、もはや付加価値になりにくくなっています。体感できるレベルを超えてしまっていることがその理由で、表示されている文字や数字で想像するレベルです。
たとえば、スマホやテレビの機能をすべて使い切っている人が、どのくらいいるでしょうか。機能性食品の成分を、どのくらい効果として実感できているでしょうか。 そうなると、新しい機能がついても、性能が上がっても、価格はいままでどおり、ということになってしまいます。これは実質的な値引きで、付加価値ではありません。
ましてや、低価格で選んでもらうというのは、さらに体力勝負の領域。価格で選んでくれた顧客は、結局価格で離れていきます。
一方、社会や環境にいい商品やサービスだということも、実は付加価値にはなりません。SDGsに取り組んでいるということも同じで、どの企業も取り組み始めているわけですから、やっていることはどこも同じで「同質化」します。つまり「差別化」が限界にきているのです。
そこで、感情で選んでもらう「差異化」が重要になっていくわけです。感情で選んでもらうということは端的にいえば、「好きになってもらう」ことです。表現を変えれば、好感がもてるとか、愛着を感じるとか、夢中になるとか、熱狂的なファンになってもらうということです。
でも、人の好き嫌いの感情を動かすなんて、至難の業だと思われるでしょう。しかし、コスト上昇時代に顧客に選んでもらい生き残っていくためには、数字による「差別化」から、感情による「差異化」への転換が求められます。これは企業の大小、業種・業態、BtoCかBtoBか、大都市か地方かに関係なく、どんな企業にも求められる生き残りの条件の1つなのです。
ところで差異化の「異」は、異質の異です。「質」という字は、性質や本質、資質や品質などという言葉に使われますが、「事物の成立するもと」という意味があります。選択肢のなかでほかとの比較や違いによって選んだ差別化ではなく、異質、つまりほかと異なる質、そのもの固有の本質を理解し、自分はこうしたあり方や考え方が好きだという感情で選ぶのが「差異化」なのです。
「差異化」の本質をひと言でいえば、共感・共鳴や感動・感銘によって行動を起こさせるということです。この「行動」は「参加したい」「協力したい」「応援したい」という賛同動機によってもたらされますが、それが選択だったり、購入だったり、使用や利用という行動を導き出します。
数という量で選んだのではなく、あり方や考え方への共感・感動という質で選んだモノやサービスですから、「好き」のその先が「愛着」や「夢中」へと変わっていき、「熱狂的なファン」としてアンバサダー的存在にも結び付いていきます。
この移り変わりを、「ファンからナカマへ、ナカマからミカタへ」と呼んでいますが、顧客を仲間以上の味方にすることは究極のマーケティング戦略です。
万博で「大阪・関西らしさ」を国内外に発信
2025年の大阪・関西万博は、想定されている来場者総数は、約2,820万人。そのうち、国内来場者は約2,470 万人で海外からの来場者が約350万人です。
これは、集まってくる国内外の人たちに、「社会性」と「革新性」に裏付けられた大阪・関西の商人道をアピールするまたとない機会です。それは現代に置き換えれば、サステナブル経営と言い換えられます。
これを機に、永年受け継がれてきた大阪・関西モノづくりの理念や文化を、そして自社の企業理念やビジョンをあらためて見直し、磨きをかける機会にしていくべきだと考えています。そしてこれこそが、企業の「リ・ブランディング」の本質なのです。
関西万博はかくのごとく、国内の各地方企業にとって大きなヒントとなり、海外の人たちにとって、日本の新たな価値を発見するきっかけになるものだと思います。
深井 賢一
株式会社 YRK and
CMO/取締役 兼 TOKYO代表
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