陳京軍・範興華・程暁荣・王水珍(2014)は、留守児童の家庭機能、自己コントロール、問題行動の特徴、および相互関係について検討した。
家族機能評価尺度(FAD)、自己コントロール尺度、問題行動尺度を用いて、留守児童321名、非留守児童71名および元留守児童68人を対象に比較調査を行った。
その結果、留守児童、あるいは元留守児童の家族機能変数の役割および全体機能、家族コミュニケーション、家族の感情反応は非留守児童より顕著に低かった。また、留守児童の問題行動は元留守児童より高かった。
北京師範大学の磊・吴映雄(2014)は社会学の観点から、「中国西部基礎教育開発プロジェクト」の実証研究を用いて、労働力の移り変わりが農村留守児童の教育に及ぼす影響について検討した。
父親の出稼ぎは留守児童の学業成績への影響が見られないが、母親の出稼ぎは留守児童の学業成績に著しい負の影響が見られ、また両親の出稼ぎから故郷へ戻っても留守児童の学業成績に有意な改善が見られないことが明らかになった。
学業を中断すると早々に「新世代農民工」へ…
これらの結果は、親の出稼ぎによる「所得効果」や「親の養育役割喪失効果」、また、親の性別による子どもの教育的発達への影響によって説明できると考えられる。
したがって、これらの知見から以下のような提言ができるのではないだろうか。
まず、①労働力の移り変わりによる人的資本配分の最適化を十分に活用するために、出稼ぎを決心する両親と一緒に児童が都市部に移住することを認め、奨励すること、次に、②母親は児童の発達においてきわめて重要な役割を持っているため、もし現行の制度で不十分な場合は、児童は母親と一緒に移住することが優先されることである。
利丹(2014)は人口学の観点から、「留守児童」から「新世代農民工」というタイトルで、「2011年中国出稼ぎ労働者の動態モニタリングデータ」(China Migrants Dynamic Survey)を用いて留守児童の学業中断問題について検討した。
留守児童が教育を受ける機会が高校生になる段階で急激に減少するという現象、両親の出稼ぎと関連している。
学業を中断した留守児童は働きに出てしまい、「留守児童」から「新世代農民工」(農民工:農村に戸籍を持ちながら、農村から都市に出向いて就労する者のことをいう。出稼ぎ農民の別称ともいえる)へと早々に身分が変わってしまい、将来のキャリア発展に負の影響を及ぼす可能性が高い。
新世代農民工の留守経験、留守期間、および留守児童になったときの年齢と新世代農民工の収入との間に関連が見られ、なぜ留守児童が高校というタイミングで教育を中断してしまうのかという問題に新たな説明が可能となった。
※本稿では各調査元(研究者氏名)と、調査年を()内に明記している。
矢藤 優子
立命館大学総合心理学部 教授
連傑濤(れん・けつとう)
立命館大学大学院博士後期課程修了。博士(人間科学)。立命館大学 OIC総合研究機構専門研究員。〔本書担当箇所〕第8章