【文例】1人に全財産を相続させるときの遺言書
1人に全財産を相続させる際の遺言書の文例は、次のとおりです。
遺言者 遺言 太郎 は、本遺言書により次のとおり遺言する。
第1条 遺言者の有するすべての財産を、遺言者の長男である 遺言 一郎(昭和50年1月1日生)に包括して相続させる。
令和4年12月1日
東京都OO区OO一丁目1番1号
遺言 太郎 ㊞
なお、「次の財産を含む遺言者の有するすべての財産を、遺言者の長男である 遺言 一郎(昭和50年1月1日生)に包括して相続させる」などとしたうえで、一部の遺産を例示する書き方もあります。
遺言書を作成時のポイント
1人に全財産を相続させる内容の遺言書を作成する際には、次の点に注意しましょう。
■公正証書遺言とする
通常使用する遺言書の方式には、主に自筆証書遺言と公正証書遺言が存在します。 自筆証書遺言は手軽である一方で、書き損じなどにより無効となるリスクや、偽造されたり隠匿されたりするリスクが考えられます。
特に、1人の相続人に遺産を単独相続させたいなど偏った内容を記した遺言の場合には、ほかの相続人が遺言書を隠匿する可能性や、反対に遺言書で優遇されている相続人が偽造したのではないかとの疑義が生じる可能性があります。
そのため、1人の相続人に遺産を集中させる内容の遺言書は、公正証書遺言で作成したほうがよいでしょう。公正証書遺言とは、証人2名の立ち会いのもと、公証人が関与して作成する遺言書です。
■遺留分について理解しておく
上で解説したとおり、一部の相続人には遺留分があります。 遺留分を侵害した遺言書を遺してしまえば、トラブルの原因となるかもしれません。そのため、まずは自分に遺留分のある相続人がいるかどうか確認する必要があります。遺留分のある相続人がいる場合には、本当に1人に遺産を単独相続させる遺言書を遺してよいかどうか慎重に検討するとよいでしょう。
■遺留分のある相続人がいる場合には対策を検討しておく
遺留分のある相続人がいるにもかかわらず、1人に相続人に遺産を集中させる遺言書を作りたい場合には、遺留分侵害額請求に備えた対策を検討しておきましょう。検討すべき対策には、たとえば次のものなどが挙げられます。
<遺留分侵害額請求がされたら…支払い原資を確保>
遺留分侵害額請求がなされたとしても、遺産の大半が預貯金などであれば大きな問題とはならないかもしれません。 なぜなら、たとえ遺留分侵害額請求がなされても、受け取った遺産のなかから容易に支払いができるためです。
一方、遺産の大半が不動産や自社株など換価の難しいものである場合には、遺留分を支払おうにも支払うだけの金銭が用意できず、困った事態となりかねません。そのため、遺留分を侵害する遺言書を作成する場合には、あらかじめ遺留分額の試算を行い、遺留分侵害額請求に備えて支払い原資を確保しておく対策が必要です。
たとえば、被保険者を被相続人、保険金受取人を遺言書で単独相続させたい長男とする生命保険契約を締結しておくことなどが考えられます。このような対策をしておけば、仮に長男が他の相続人から遺留分侵害額請求をされたとしても、受け取った生命保険金を原資として遺留分の支払いをすることが可能となるためです。
<生前の遺留分放棄>
また、生前の遺留分の放棄という制度も存在します。 これは、遺留分のある相続人が被相続人の存命中に自ら家庭裁判所に申し立て、遺留分を放棄する手続きです。たとえば、長男と二男の2人が相続人であるにも関わらず遺言書で長男に遺産を単独相続させたい場合において、二男に生前の遺留分放棄をしてもらうことがありえます。
ただし、遺留分の放棄は、放棄する本人以外は申し立てられず、第三者が強制できるものでもありません。二男が遺留分放棄をするためには、二男が自らの意思で行う必要があり、遺言書を遺す被相続人や遺産を多く受け取ることとなる長男が、二男の遺留分放棄を勝手に申し立てることはできないということです。
また、遺留分放棄を申し立てたからといって、必ずしも許可がされるわけではありません。 家庭裁判所が遺留分放棄を許可するためには、次の要件をすべて満たす必要があるとされています。
・遺留分放棄に合理性と必要性があること
・放棄に見合うだけの見返りが存在すること
そのため、たとえ本人にその気があったとしても、合理性がない場合や見返りが不十分であると裁判所が判断すれば、許可を受けることはできません。
■弁護士へ相談する
1人に全財産を相続させる内容の遺言書を作成する際には、弁護士へ相談することをおすすめします。遺言書の文面はシンプルであるため、作成自体は簡単であると感じるかもしれません。
しかし、偏った内容の遺言書は、遺留分などさまざまなトラブルの原因となる可能性があるためです。弁護士へあらかじめ相談しておくことで、そのケースに応じたリスクを把握することができるほか、リスクへの対策を講じることも可能となるでしょう。
まとめ
相続人の1人に全財産を相続させる内容の遺言書を作成することは可能です。しかし、このような偏った内容の遺言書は、後のトラブルの原因となる可能性があります。そのため、作成にあたってはあらかじめ弁護士へ相談するとよいでしょう。
堅田 勇気
Authense法律事務所
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